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山小屋の前には、銀色に光る芝が広がっていた。 「玲!」 大きな黒い影が、こちらを振り向いた。 「時…今夜は部屋から出るなと言った筈だが…」 「そうじゃないの…そうじゃないの…」 私は、肩を大きく上下させながら呼吸を整えた。 色々な言葉が頭のなかを駆け巡り、形にならない思いが胸を詰まらせた。 「どうした…」 玲は私の傍に歩み寄り、頭に手を置いた。 「イトイが逃げたの…」 私は、涙と汗でぐちゃくちゃの表情で呟いた。 「逃げたって…どういうことだ?」 「分からない…里花が怪我してるの…血がたくさん出ていて…それで…それで…」 それ以上、話すことは出来なかった。 気が付くと、玲の胸の中で声を殺して泣いていた。 玲は、私を抱き締めながら呟いた。 「心配するな…彼は用事を済ませて帰ったから大丈夫だ…」 彼とは、私が先日お遣いに行った小屋の主のことだろう。 「善、っていう人?」 「そうだよ」 「…里花が…まだ、部屋にいるの…早く、お医者さんに行かないと…」 何か滴るような鈍い音がして振り向くと、里花が血液が滲み出る片腕を押さえて立っていた。 「玲…ごめん…」 普段、悪とイトイは山小屋の外の納屋で眠っている。 しかし、玲の指示により2匹は今晩だけは山小屋で眠ってもらうことになっていた。 悪は私の部屋、イトイは玲の作業部屋で里花と一緒に一晩を過ごすことになっていたのだ。 「今夜は、2匹を外に出してはいけない…」 玲から強く言われていたことなのに… 善は悪の姿を見てはいけないので、私は悪と共にいた。 でも、イトイは何故外に出てはいけなかったのだろう… 里花も、私と同じように涙声で呟いた。 「あの子、今晩はいつもと違ったの…どんなに引き止めようとしても無駄だった…私に襲い掛かってきて…いつもは、大人しいのに…。」 玲は、里花を真っ直ぐに見上げて答えた。 「気にしなくていい…むしろ、お前には悪いことをした…。」 そして、玲は私を抱き上げた。 「行こう」
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