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和美1歳
それは突然の出来事だった。のどかな昼下がり、俺はまだ幼い和美の様子を見守っていた。和美はローテーブルの縁に手を置きながら、ゆっくりとこっちへ向かってきている。床に座っている俺は彼女を呼ぶように手を広げた。
しかし、和美はローテーブルの一番端まで着いてしまい、行けないと言いたげに声を漏らす。これ以上は育江がいないと、と周囲を見回したがキッチンで音がするばかりでこちらに来る気配はない。
困り果てていたそのとき、漏らす声が大きくなっている気がして和美の方を見れば、よたよたと何もつかまらずに歩いていた。
おいで、と俺が呼びかけると反応するように、こちらに歩み寄る。一歩進む度に身体が揺れ、ふらつく。がんばれ、あともう少しだ。
目の前に来た瞬間、和美は膝から崩れ前に転びそうになる。なんとか俺がクッション代わりとなり、和美が倒れてきた。腹がぐっと潰され凹んでいく。また知らない間に重くなったな。
「ぱぱ、ぱぱ」
和美は笑顔で何度も俺のことを呼んだ。そんなに呼ばなくても、俺はいるから。ふと、和美の後ろに視線を向けると、キッチンにいたはずの育江が立っていた。
「あら、かずちゃん。もしかして、ここまで歩いてこられたの? すごいじゃない、ママにも見せて?」
育江ははしゃぐ和美を抱きかかえる。せっかく初めての瞬間だったのに、育江はもったいないことをしたなぁ。ふと、育江と目が合えば微かに睨み付けられているような気がした。
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