空洞は麻痺してつんざく愛

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   1週間後、葉山がいじめの対象になった。  原因は、友達の吉田リサの彼氏とヤったから。らしい。  「お前ふざけんなよ!」  「友達の彼氏取るとか何考えてんだよ!」  「死ねよ!!クソ女!!」  クラスに罵詈雑言が乱れ打つ。吉田を始めとしたクラスの主力メンバーが葉山を囲っている。  1週間前まで、葉山と一緒に私を囲っていたくせに。  葉山は私より前の方の席だから、今どんな顔をしているのかわからない。  「おい動くなよー葉山ぁ」  笑いながら机に手の平を押し付けられた葉山。シャーペンが狙いを定めている。  自席からその様子を眺めていたら、吉田と目が合った。  「おい真木。お前やれよ」  吉田はそう言って私にシャーペンを向ける。囲っている連中もこちらを見る。葉山は隠れて見えない。  私は小さく溜め息をつき、席を立って教室を出た。  昼休みにトイレに向かっていると、吉田達が笑いながら出てきた。  扉を開けると、びしょ濡れのトイレの廊下の真ん中に、びしょ濡れの葉山が座っている。  窓の外から笑い声と風が吹く音と水が滴る音。  葉山だけが、世界から浮かび上がっているようだ。  「・・・ねぇ、真木」  「・・・」  「わたし、真木の事、好きだよ」  「・・・」  「一緒にいると、ほっとするし、わくわくする」  「・・・」  「でもそれと同時に、ぞわっとして、イライラもする」  葉山が顔を上げ、私を見る。  私の部屋で見せた、あの顔で。  「ねぇ真木。真木はわたしを助けてくれる?それとも、殺してくれる?」  トイレの外から笑い声が聞こえ、通り過ぎて行く。  「助けない」  「・・・わたしが嫌いだから?」  「違う」  「じゃあ・・・殺してくれる?」  「殺さない」  「・・・なんで?」  葉山の前に屈んだ。  「お前を殺してやるほど、嫌いじゃないし。   お前を助けてあげるほど、好きでもない」  葉山の瞳がゆらり、と揺れた気がした。溢れ落ちそうな大きな瞳を見つめながら立ち上がる。  「私はこれからも、お前に対して何もしないし、思わない。『嫌い』って体現してぶつけられているだけ、幸せだと思うよ」  私は扉に向かって歩き出す。  「好きと嫌いは似てると思う。吉田達も、お前も。   ・・・それでも良いなら、また家来れば?」  そう言ってトイレから出ていった。  家に帰り、シャツを脱いでよれよれの黒い上下のスウェットに着替える。  シャツを洗濯機に放り込んで、部屋で煙草に火をつける。ゆっくり吸い込み、ゆっくり吐き出す。尽きたものを補充するように。  インターホンが鳴る。  吸い始めたばかりの煙草をしばらく見つめ、しぶしぶ消して立ち上がる。  モニターに写った人物を見て、溜め息をついてから扉を開けた。
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