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青年は盗難届に必要事項を書いていく。住所・職業・氏名・電話番号・防犯登録番号・車体登録番号・自転車の値段と言った具合である。
全てを書き終えたところで警察官が尋ねてきた。
「どのような鍵をおかけになられてましたか?」
「えっとですねぇ…… 押しボタン式の鍵。ほら、サドルの真下にあるような」
「ああ、十桁のやつですか?」
「はい」
「あれ、番号何通り押せば開くと思いますか?」
0123…… 0124…… 0125…… 0126…… 0127…… 0128…… 0129…… 0219…… 青年は4桁の番号を頭に思い浮かべながらうーんと唸る。そして、導き出した結論はP(順列、n個の中からr個を取って一列に並べる)と言う簡単な計算式であった。
今回は10個の中から4個を選ぶと言う意味である。
「5040通りですよね?」
10P4=10×9×8×7=5040 青年は根っからの文系であったが、高校時代に少しだけ受けていた数学の授業を思い出してこの答えを導き出したのだった。
「はい、そうですね。5040通りです」
正解だったか。青年はホッと胸を撫で下ろした。付添の友人は正真正銘根っからの文系だったために何が何だかわからずに呆然とするばかり、いや、わからないと言うよりは考えてすらいないという方が正解だろう。
警察官はゆっくりと口を開いた。
「5040通り、これら全てを試す窃盗犯なんてそうはいません。でも、もっと少ないとしたら試す可能性があると思いませんか? そう、0129、0192、1092、1029…… これ、全部同じなんですよ」
「四桁の順番。ってことですか?」
「そうです、この手の鍵は順番関係ないんですよ。そうなると、今5040を導き出したのとは別の計算になると思いませんか?」
「PじゃなくてC(組み合わせ、n個の中からr個を選んだ場合の数)で計算するってことですか? えっと、10C4だから……」
10C4=10×9×8×7を1×2×3×4で割った数。つまり、5040÷24の答えと言うことになる。青年はその答えを瞬時に導き出した。
「210!」
警察官は青年に向かって軽く微笑んだ。友人は先程と同じく呆然とするばかり。
「先程の0129、0192みたいな重複する数を除外していくと、5040分の1がいきなり210分の1になるんですよ」
そこに友人が割り込む。
「あの、計算よくわかんないんですけど…… とにかく5040個が210個に減るってことですよね? 210個の数でも一個一個入れてくのって割と大変なのでは?」
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