あれ? ない?

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警察官は憂いを含んだような顔を見せた。 「人様の物を盗むような人の心理はわかりませんが、本当に色んな人がいるんですよ。210個の数字を黙々と入力するような変わり者がいても不思議じゃないとは思いませんか?」 ぐうの音も出ない。確かにこの世の中変わった奴はゴマンといる。友人は閉口し、納得するしかなかった。 「210個ぐらいだったら、学校終わった後で時間あれば黙々と入れるって可能性もゼロじゃないですよね」と、青年。 「後は番号のボタンの手垢とかでわかっちゃうパターンもありますね」 この形式の鍵で正解の番号以外のボタンを押さないのは「盗んでくれ」と言っているようなもの。青年は必要もないのに自省するのであった。警察官は言葉にこそ出さないが「盗まれる方も悪い」と言われているような気がしたからだ。 青年はもう一つの鍵の話を付け加えた。 「後、ハンドルロックを」 青年はポケットからハンドルロック用の鍵を出し、警察官に見せつけた。 「ハンドルロックですか。かけるのは勿論ですけど…… 思い切り曲げるとコジ開けることも出来ちゃうんですよね」 「自転車盗む奴ってそこまでやるんですか?」 「売るとかそういった目的ではなくて、例えば…… 近場にちょっと乗るためだけに盗む場合もあるんですよ。そうですね、今回の場合なら『大学から駅まで』のちょっとした距離とか」 「はぁ…… 末法の世ですね。とにかく、見つかったら連絡して頂けるんですね?」 「はい、見つかったら先程書いていただいた番号の方にご連絡の方を差し上げますので」 「すいません、ではお願いします」  青年はそれから自転車を探し続けた。近辺の大学、駅…… 方方(ほうぼう)探し回るも結果は芳しいものではなかった。市が発表するこの近辺の駅の放置自転車の台数は数千台、太平洋に浮かぶ木の葉や砂漠に落としたコンタクトレンズを探すようなもの。発見は絶望視された。
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