あれ? ない?

1/9
前へ
/9ページ
次へ

あれ? ない?

「うそだろ、ありえない」 ここはとある大学の駐輪場、この大学に属する一人の青年が呆然とし、信じられないと言った顔をしながら佇んでいた。 その後ろを青年の友人が通りかかった。 「おう、どうしたんだ?」 「自転車(チャリ)窃盗(パク)られた……」 青年の友人は怪訝な顔をしながら尋ねる。 「うわ、マジかよ。置いた場所違いとかじゃねぇの?」 青年は駐輪場を歩き回り、自分の自転車が置かれてないかどうかのチェックを行っている。置いた場所を間違えたという話ではなかった。 「こういう場合、どうしたら良いんだろうな?」 「学生課に報告? 駅の自転車置き場探す? 警察? 俺、車通学なもんで、こういうの疎いのよ」 「学生課かぁ」 二人は学生課へと向かうことにした。青年も友人も今日の講義が終わり後は帰宅するだけとなっており、自転車を探す時間はあった。友人の方は半分暇潰しでの付き合いである。 青年が学生課のカウンターの前に立つと、やる気のなさそうな事務員が対応にあたった。 「あの、自転車盗まれちゃったんですけど」と、青年が言うと同時に事務員は一瞬だけ苦い顔をした。青年はこれを見た瞬間に「こいつには期待出来ない」と考えた。 そして事務員は青年の予想通りの反応を見せた。 「この大学、自転車置き場あるじゃないですか。それで他所(よそ)から入ってきて盗む人多いんですよ」 何を嘘吐いてるんだこの事務員め。この大学の近くには駅があり、勿論この大学の駐輪場よりも遥かに大きな駐輪場もある。他所(よそ)の人間が盗むなら駅の駐輪場から盗むに決まっているだろう。何が面白くて大学の駐輪場に入り込んで自転車を盗まなければいけないのだろうか。当大学(ウチ)の学生は自転車なんて盗みませんよとでも言いたいのだろうか。 もし、在籍する学生が自転車を盗んだとなっては大学の責任問題だ。いきなりの責任逃れのことなかれ主義発言に呆れ果てた青年は「学生課(こいつ)、もうダメだ」と思いながら、形式上の被害届とも捜索願とも言えない紙に必要事項を記載し、学生課を後にするのであった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加