side 隆二

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 郁人の身体がいつもより少し温かい。だからいつも以上に隆二だけを溶かす甘い香りが寝室に広がっていく。 「ほら、もっと可愛い項を舐めさせて?」 「やぁ……も、イキた……りゅぅぅ……イキたいぃ、ぐちゃぐちゃ、に……とかしてぇ」  今日は平日で、明日の仕事は郁人は休みだが、隆二は出勤。なので、今夜はゆっくりじっくりねっとりベッドの上で郁人を鳴かす日だ。  二人の休みが揃う週末前夜はまた違った楽しみ方を、獣の様に互いに本能的な愛し方をするが、『毎日それだと動けない!!』との郁人からのクレームに対応し、二人で見つけたこの落とし所だ。ちなみに『しない日』を作るという選択肢は隆二には欠片もなかった。 擦り付けるようにねっとりと郁人の中を楽しむと郁人の下腹部がぷるぷると震え既に色を無くした液体が雄の象徴からこぷりと流れ落ちる。 郁人の希望する穏やかな交じり合いは物理的にも精神的もとことん甘く優しいものに限るというか隆二の流儀だ。 だが、今日に限ってはその優しさにほんの少し後ろめたさが交じる。 そろそろ郁人の思考が溶け出したと判断すると隆二は後ろから入れたままくるんと郁人を仰向けにし優しく覆いかぶさった。 「ねぇ、郁人。他に好きな人でもできたかな?」 鼻を付けながら、最近ずっと気に掛かっていた事をたずねると郁人はとろけながらも何を言われているのかわからないといった表情を見せた。 「車が好きな男でも見つけたのかな?いつもはバイクのパーツばかりの検索履歴が車だらけだよ?それに、ここの所バイクで出勤してないよね?」 「っ!!」 隆二の言葉に腕の中の郁人の身体がビクリと跳ねる。 最近は在宅勤務が増えたとはいえ、通勤の際はバイクを使っている筈の郁人のバイクが出勤後、マンションの駐車場に残されているのに気が付いたのはここ半月。 思わず暴れる郁人の両手を抑えつけ、平日にはありえぬ程、腰をはげしい打ち付けると、郁人が嫌だと言わんばかり頭を振るので口付けて動きを封じる。 ぐじゅぐじゅと下肢から聞こえる水音が隆二の獣の部分をさらに刺激する。 「それに、先週はわざと週末の俺との休みをずらしたでしょう?」 ゆっくりと唇を離すと唾液が糸をひく。耳元で囁いたあと見下ろしたはくはくと酸素を求めて呼吸する姿はいつも愛しい。 隆二だって本気で浮気を疑っている訳ではない。郁人の項にはとっくに隆二が噛み跡をつけているし、郁人の心は確実に既に隆二の元にある。ただ番が何か隠し事をしている事が気になるのだ。 αというものは番が一番で、可愛いと自慢したい欲望の反面、誰にも見せないで囲いたいという欲望も抱えている。隆二の収入なら郁人と将来生まれるであろう子供達を余裕で養える。けれど働きたいという郁人の気持ちに寄り添った現状だ。生き生きと働く郁人を見守るのは幸せだが、自分の知らない郁人が居ることが気に食わない。 それでなくとも郁人は身も心も美しく魅力的で老若男女性別を問わず惹きつけ魅了する。それこそ今宵の月の様に。 郁人自身にその気がなくても知らぬ間に騙されて拉致監禁でもされたらたまらない。少なくとも出会ってからの三年の間で何度も郁人は隆二に対し何か可愛い事を企んでいるつもりが危険に巻き込まれていた。 郁人本人が知らぬ間に勝手に相手がひきつけられていたとしてもやはり隆二は許せない。 「ち、ちが……りゅぅ、だけぇ……」 やっと浮気を疑われたと気が付いたらしい。ポロポロと大粒の涙を流し郁人が首を振る。 「じゃぁ、なんで?」 郁人が隆二以外に興味が無いことくらい隆二だって知っている。信じている。けれどいくら郁人に興味が無くとも心も身体も美しいガラス細工の様な郁人を目にした相手が同じ考えとは限らない。 美しいものは手にしたい。手に入らないなら穢したい、壊したいというのはαの、と言うよりは全ての雄の本能的な場所に巣食っていのかもしれない。 ただの可愛らしい隠し事なら良いが隆二に話さぬまま危険に巻き込まれそうな気配を感じ心配しているのだ。決して嫉妬深い訳ではないと思う。 「あした……」 予想していなかったであろう隆二の重く激しい嫉妬と愛情に溺れそうになっている郁人からハスキーな深みのある声が小さく溢れる。 「ん?」 「あしたぁ、ちゃんと、はなすぅぅ」 郁人は馬鹿じゃない。いやその魅了さえなければ純粋にとても優秀な人材だ。隆二が伝えれば自分の状況を客観的に見られる。 その郁人が疑われ嫉妬され愛された理由をちゃんと理解できていて、それでも話せないという。 「明日じゃなきゃだめ?」 「うん」 「どうしても?」 「うん」 こういう時の郁人は決して譲らない。 隆二は仕方ないと深々とため息をついたあと、『なら、明日まで我慢する俺にご褒美を』と郁人の耳元に囁くと、その両手を抑え再び腰を激しく打ち付ける。 最初こそ、郁人はイヤイヤと小さく拒絶を見せていたものの、そのうち、きゅうきゅうと郁人の中が震えうねり隆二の熱を欲してくる。拒絶するつぶやきは声にならない甘い鳴き声に変わっていく。 郁人は明日休みだ。少なくとも一日家から、いやベッドから出られないよう抱き潰しておくくらいの安全策は取らせてもらう。 ちなみに、明日は明日で久しぶりに二人休みの揃う週末前日だ。だから隆二は『一日我慢した俺にご褒美を』と普段の週末前日以上に本能のまま貪り食う予定だ。 明日一日、心配するのだ。それくらい許して欲しい。 腕の中の美しい人は月より美しく、沢山の表情を月の満ち欠けの如く隆二に見せて、魅せる。 だから隆二は雲になってその姿を包み隠す。 これは隆二にとって何よりも大切な番なのだ。
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