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分不相応なほどの荘厳な自然は、こんな薄汚れた自分をも温かく迎え入れてくれ、浄化してくれた。ここにいればこんな自分も少しは綺麗になれるのじゃないか、なんて思うほどに。
「……年を取ったら、こんなとこにふたりで住むのも悪くないかも」
「えっ」
アヤの何気ないひとことに、リョウが素っ頓狂な声を上げた。それはガラにもなく何を言いだすのか、といった驚きの意味合いもあるだろうが、リョウも今ちょうど同じことを考えていたからだ。自分たちが年老いて毎年訪れることが出来なくなる前に、健康にも良さそうなこの地に住んでしまえばいいのでは、なんて。
「俺も今、おんなじこと考えてた」
今日一番の神々しさすらたたえた笑みを浮かべてリョウが言うものだから、アヤは思わずそこらへんの路肩へ寄って車を停めた。
「え、あれ? どしたん」
急な路線変更にリョウが驚き慌てていると、唐突に唇を重ねられ、そして何事もなかったようにまた車は発進した。
「……なんか言うてえや……」
突然のキスに恍惚としながらも、不満のツッコミを忘れないリョウだった。
どんなリョウだって好きだけれど、やっぱり笑っている方がいい。髪に白いものが混じっても、しわくちゃになっても、この笑顔をずっと隣で見ていたい。それはつまり、もっと生きていたい、この先もずっと生きていなくては、という気持ちの表れでもある。本人は気づいていないが、これまで生きることに執着のなかったアヤが、初めて将来を、未来を強く欲した瞬間でもあった。
【おわり】
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