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「腹膨れたら眠なってしもた」
始発でアヤのもとへ駆けつけたリョウ、いったい朝何時に起床したのだろう。客室へ戻るやいなや畳へ足を投げ出した。眠さのあまり、しきりに目を擦る様子は子どもみたいだ。
「寝ちゃう前にお風呂行こうか」
「せやな……」
そう返事するものの、早くもリョウの瞼は半分ほど閉まりかけている。
「ほら、早く」
両腕を握って引っ張り起こすと、リョウがぴっとりとアヤの胸にもたれかかった。
「ふふ、今日はありがと」
「うん」
「明日ももーっと楽しい日にしよな」
「そうだね」
ふにゃふにゃと笑うリョウはまるで酒にでも酔っているようだ。
そのまま手を引いて、立ち上がらせてやり、そっと口づける。リョウの瞳がより一層とろんとした。
「あ、アヤ……」
「続きは後で、ね」
「うん……」
ふたりで入る、何度目かの露天風呂。それでなくても人目を避けたいふたりだというのに、混み合う時間帯と重なってしまったようで、風情を味わうどころではなかった。普段から烏の行水であるアヤはさっさと部屋に戻りたいと言い、温泉好きのリョウはもうしばらくお湯に浸かっていたいということで、別行動を取ることになった。
こうして別々に行動するようになったのは、ふたりで過ごす期間が長くなってきて、少しずつではあるが余裕が出てきたからなのかもしれない。交際を始めたばかりの頃なら、特にリョウは、一緒に過ごしている間じゅうべったりとアヤにくっついて絶対に離れなかったはずで、そしてアヤはそんなリョウを少し鬱陶しく思っていたはずだ。
恋人とは四六時中ベタベタしていたいリョウと、恋人が出来たってひとりの時間の方が大事なアヤ、交際に関するスタンスが噛み合わなかったふたりが、少しずつ擦り合わせを繰り返し、今はなんだかんだでとてもいい感じ、なのである。
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