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一日の疲れを取り、露天風呂でのんびりしたら、リフレッシュして頭もすっきりと冴えた。リョウはこの後のお楽しみに心躍らせながら自分たちが泊まる客室へ急いだ。
しかし、ドアを開けると。
「……そらアヤかて疲れたよな」
先ほどまであんなにしっかりとリョウをサポートしていたアヤが、口を閉じるのも忘れて完全に夢の中。寝付きが悪い、不眠気味のアヤにしては、驚異的な寝付きの良さである。それだけに、起こすのは忍びない、とリョウは思う。先ほどの続きを楽しみにしていたのに、と落胆するが、今日一日運転を全て任せ、気が進まないであろう観光に連れ回した罪悪感と葛藤する。休憩なしで約三時間半の道のり。贅肉も筋肉もあまりついていないアヤの臀部は痛んでいないだろうか、と心配してしまう。
すっかり頭が冴えてしまったリョウは、そのまま寝てしまうのもなんだかもったいなく感じ、もう一度外へ出てみた。日中は汗ばむぐらいの陽気だったが、夜風はひんやりとしていて、風呂上がりの火照った肌にはちょうど心地良かった。外灯もなく、さわさわと風で木の葉が揺れ擦り合う音しかしない、そんな空間。この世に自分ひとりしかいないような、大阪に住んでいるとめった経験することのない感覚に、しばし身を委ねた。ひとりが大嫌いなリョウだが、こんなひとり時間も悪くないな、と不意に空を見上げると。
「……うわあ……」
満天の星。それこそ、大阪では見られないような。お椀をひっくり返したようなドーム状の空に、無数の星がきらめいている。無心になって見つめていると、空に吸い込まれそうになる。
「やっぱり、一緒に見たかったな」
くすっと笑いながら誰に言うでもなく呟くリョウだった。
温泉でじっくり温めた体が少し冷えてきた。リョウはひとりの散歩を早々とおしまいにして、愛する人が眠る部屋へ戻った。
愛する人は起きていた。無言でリョウに非難の視線を浴びせる。
「あ、起きてたん」
リョウが少しばつが悪そうに言うと
「どこ行ってたの」
むすっと言い放つ。機嫌が悪いのがありありとわかる。
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