覚えているよ

　ねえ、覚えている？啓介くん、幼稚園のとき、秘密の基地を教えてくれたよね。解体した引っ越しトラックの荷台だった。そこでキスしてくれたよね。真っ暗だったから啓介くんのお父さんのキャンプ用のランタンを置いたよね。キスしたのは二人だけの秘密。啓介くんはどういう気持ちでキスしてくれたのかな。
　私はそう思いながら国語の授業を受けている啓介くんの後ろ姿を見た。私は中学二年生だ。啓介くんは男の名前だけど、本当は啓子(けいこ)という。女の子だけど、男の子に生まれたかったらしいので自分から啓介と名乗っているそうだ。
　啓介くんは小学校のときはジーンズかハーフパンツだったが中学になると制服のスカートを穿いた。本人が担任に掛け合ったのだがズボンにしてくれなかったらしい。でも髪はショートだし登下校以外はジャージが許されているから殆どジャージだ。こうして見ている今も紺色のジャージで黒板をノートに写している。私はこの姿を見るのが好き。一年の時は違うクラスで見ることが出来なかったが二年になって同じクラスになった。体育館でクラス替えの発表の紙を見たとき、私は嬉しくて跳ね上がった。