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本当に理由が「プリン」だなんて。
――絶対にそうだと思いますよ? 支配人と事前の打ち合わせの時に、プリンのことが話題になって、テレビでも紹介されて今とても好評で、って言った途端に表情が一変してましたから。
俺にプリンを食べさせたかっただけなんて。
――だから、あの人はとても我儘なんですよ。観念してください。
でもでも。
――貴方を喜ばせるのが何より楽しいんです。
でも。
「気に入った? ここのプリン」
雪隆さんが、迷惑で面倒な人に捕まりましたよね、って笑っていた。
「はい。すごく美味しいです」
「それはよかった。前にここのホテルの支配人と打ち合わせをした時、プリンがとても評判がいいって言っていたんだ」
はい。それさっき雪隆さんから聞きました。テレビでも紹介されたんでしょう?
「テレビで紹介されたらしくて、拓馬に食べさせたくてデートに誘ってしまった」
「っぷ」
「拓馬?」
思わず笑っちゃった。だって雪隆さんが言っていたままだったから。
「なんでもないです。今日、すごく忙しかったはずなのに、こうしてデートに誘ってもらえて嬉しかったんです」
「そう?」
コクンと頷くと敦之さんが蕩けるように微笑んでくれる。少し、スパークリングワイン飲みすぎたかもしれない。なんだか、そんなふうに微笑んでくれる敦之さんの周りで光が、ほら、弾けて踊ってるみたい。このスパークリングワインのグラスの中で弾ける泡みたいに。
「今日は、服装、雰囲気が違うね」
「あ……えへ、今日のためにって買ったんです。でも、俺センスがないから、飾ってあるのをそのまま店員さんが勧めてくれたのを」
「へぇ」
「でもなんか俺じゃないっぽいっていうか、地味な俺には少し不釣り合いな気がして。何度も鏡で確認しちゃいました。あ、そしたら、すごい偶然なんですけど、ここのホテルのロビーのところで、あの生花の教室であった人と……と……」
テーブルクロスの上、手を乗せていたら、その手に敦之さんの手が重なった。
「その服も素敵だけど」
「ありがとう、ご、ざいます」
指が指を撫でて、付け根の部分を触られると、指なのに。
「少し、拓馬にしては」
「あ、変、です、よね」
「変じゃないし、素敵だけど……いや、違うな」
ただ指が触れてるだけ、なのに。
「拓馬の服も全部、独り占めしたかっただけなんだ」
指だけで、すごく。
「……あ、つ、ゆきさん」
ゾクゾクした。
「あっ……ン」
タクシーでうちに帰る間、ずっと手を繋いでいた。いつもたくさん話をしてくれる敦之さんが無口だった。
「あっ……ダメ……まだシャワー」
硬く張り詰めてしまった俺のに口づけをくれる。それを慌てて阻止しようとする手は遮られ、ダメって言葉を告げる唇は唇で塞がれた。
「ン」
「……」
「あ……ン、乳首っ」
無口な敦之さんが俺をじっと見つめて、買ってきた服を捲り上げると、もう期待に膨らんでいる乳首を舌で舐め上げた。
「あぁっ……」
俺は、ずっと……ドキドキしていた。
期待に胸を膨らませていた。
敦之さんがヤキモチを妬いてくれた時のは少し激しくて、いつもは柔らかく包み込んでくれる腕が強くなるから。独り占めしたいって、気持ちが滲んで沁みた抱き方をしてくれる、から。
「敦之さん」
ほら、自分の声がどうしようもなく媚びてる。甘えて、懇願してる。恥ずかしいくらい。
「我儘だと雪隆によく叱られるんだが」
「?」
「確かに、我儘だな。君がデートのためにとお洒落をしてきてくれるのは嬉しいのに」
―― ここのレストラン、プリンがとても美味しいと評判なので貴方は食べたら喜ぶかもしれないと言ってましたから。
そう、雪隆さんが言っていた。
プリンを食べさせたいだけで呼び出すなんて、と呆れた顔をして溜め息をついていた。
――本当に我儘な……。
「他の男が君を見て似合うと言った服だと思うと、こうなってしまう」
「こう……って?」
ほら、この通りだ……と言いたそうな顔をして、俺の両手をベッドに縫いつけた。
「拓馬が魅力的すぎるからだよ」
「そ……んな、こと」
それは敦之さんのことでしょう? お花の教室の時、たくさんの女性が目をハートにして貴方を見つめてる。
「君はちっともわかってない」
わかってないのは敦之さん。皆、ねぇ、あの会場にいる女性みーんな、貴方のことを欲しがってるのに。
「その店員はきっと拓馬の魅力に気がついたんだ。とてもよく似合ってる」
ちっともわかってない。
「拓馬」
「あ……敦之さんの口でしたい」
「俺こそ、シャワーを浴びてないよ」
「や……したい」
口を開いて見せた。お酒も入って、今、興奮もしてる、きっと真っ赤になっているだろう舌を出してみせて。
「敦之さんの、たくさん舐めたいんです」
雪隆さんは敦之さんに呆れていたけれど、違うんだ。
我儘なのは俺なの。
独り占めしたがりなのも、俺。
「敦之さんの全部、欲し……ン」
ね? 自分はシャワーを浴びてないからと言うくせに、敦之さんのは口にしたいと言う。イヤイヤをして、キスをする。
「ン……敦之、さん……」
俺の方がずっと……ほら、我儘。
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