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二人は大通りまで戻ってきた。
伊武の方から、名残惜しそうに別れを告げた。
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん。――あ、ちょっと待って」
言いかけて、塔子はいくらか口ごもり、手を前で組みながらとろとろと話した。
「今度、もしよかったらさ。よかったらでいいんだけど、一緒に私のお母さんのお墓参りに付き合ってくれないかな」
まだ報告していなかった。結婚したことも、離婚したことも、出産することも。それ以外にも、報告しなければいけないことがたくさんあった。例えば後輩の女性社員のこととか。
伊武は目をぱちぱちさせた。そして頬の線に僅かに嬉しさの弾みを覗かせて答えた。
「いいですよ」
伊武の答えは短かった。
「いいの、本当に」
「いいんです。どこへでも飛んでいきますよ」
塔子は意味もなく頭を掻き、二人はさよならの代わりにグータッチをした。
きれいな大気が心を満たしていった。くっきりと鮮やかな波音がいつまでも脳裏から消えなかった。
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