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眉をゆがめて、千堂さんは苦しそうだ。何に苦しんでいるのか分からないけれど、楽にしてあげたい。
「千堂さん。好きです」
そう、伝えた。
「でも、もうやめといた方がいいと思う」
「……何を」
「両思いに、なるのを」
「るなちゃん……それで、いいのかな」
千堂さんの手が、私の手をとらえる。
「いいと、思う」
「じゃあ何で、泣くの」
「千堂さんが……好きだから。千堂さん」
「……何」
「好きになって、ごめんなさい」
それは姉に言いたかったことだった。
私はその夜、千堂さんの家に帰った。そして朝が来るまで、千堂さんの隣にいた。朝になって制服を拾い集めながら私は、窓の中に白い月の輪郭を見つけた。新しく満ちていく月の始まりは、何の汚れもない、純白なのだと思った。
忘れよう、と思った。千堂さんのことを何もかも忘れようと思った。もうコンビニにも行かない。時間がたてば、いつか思い出したくても思い出せなくなっていくだろう。あのタクシーの運転手のドラマみたいに。私はばかだから大丈夫だ。忘れっぽいから、大丈夫だ。
学校に行く気など、起きなかった。無断外泊をしてしまったので、どうせ帰ったら親に怒られる。
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