月光と怪物

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 子どもの頃、姉のおもちゃを取った時、なぜかいつも姉の方が怒られた。お姉ちゃんでしょ、少しくらい貸してあげなさいって。いつもそうだった。いくら姉の物を取っても、それが姉にとって大切なものだったとしても、私は罪のない、無知な弱い生き物だった。  許してもらえるだろうか。  今度も、少しくらい、許してもらえるだろうか。  だって、ただ、好きになってしまっただけなのだ。  それがたまたま、姉の恋人だった。ただそれだけなのだ。 「知ってる? 指だけで、9,999まで数える方法があるんだって」 「ええ? 何それ」 「形を変えてくと、9,999通りいけるらしいよ。まだプラスもマイナスもイコールもなかった時代は、そうやって自力で計算してたんだって」 「へえー。なんか大変そう。でも私たちも大変だけど。訳わかんない記号ばっかりで」 「そうだね。方程式でも何でも、本当は計算を楽にしようと思って作られたはずなのに。でもそんな事情知らない人間には、訳分かんないよね」 「うん、ほんとそれ。私には迷惑でしかない」 「大事なのは本質なんだよ、形式ではなくて。そこから、理解しなくては」
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