月光と怪物

11/14
前へ
/14ページ
次へ
 言いながら、私たちは見つめ合う。  千堂さんの顔は、すてきだった。  コンビニの健康的な原色など塗りつぶしてしまうくらい、千堂さんはモノクロで美しかった。  そして唇だけがカラーだった。  選ぶ言葉も、すてきだった。コンビニの時とはうって変わって、夜は秘密めいた色を帯びる。数学嫌いの中学生には呪いにしか聞こえないこんな話も、肉々しいメインディッシュの前の野菜のようだ。  よく見かける恥ずかしいカップルのように、本当は最初から最後まで、手をつないでいたい。  それから、もう一度キスしてほしい。  でも怖い。  好きだと言ってしまうのが、怖い。 「昨日聞いたんだ」  千堂さんは言った。 「……え?」 「るなちゃんって、野本だったよね」  私は一時停止した。 「野本ひよりって、君のお姉さん、だよね」  野本ひより。  は、私のお姉さん。 「……そう。そう、です」 「……そうだったんだ」  そのまま私たちはしばらくフリーズした。  静止画のような無人の公園で、私たちも動かなかった。  薄いレースのような雲が、夜空を通り過ぎていく。 「……あ」  私は夜空を見渡した。 「月が、ない」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加