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言いながら、私たちは見つめ合う。
千堂さんの顔は、すてきだった。
コンビニの健康的な原色など塗りつぶしてしまうくらい、千堂さんはモノクロで美しかった。
そして唇だけがカラーだった。
選ぶ言葉も、すてきだった。コンビニの時とはうって変わって、夜は秘密めいた色を帯びる。数学嫌いの中学生には呪いにしか聞こえないこんな話も、肉々しいメインディッシュの前の野菜のようだ。
よく見かける恥ずかしいカップルのように、本当は最初から最後まで、手をつないでいたい。
それから、もう一度キスしてほしい。
でも怖い。
好きだと言ってしまうのが、怖い。
「昨日聞いたんだ」
千堂さんは言った。
「……え?」
「るなちゃんって、野本だったよね」
私は一時停止した。
「野本ひよりって、君のお姉さん、だよね」
野本ひより。
は、私のお姉さん。
「……そう。そう、です」
「……そうだったんだ」
そのまま私たちはしばらくフリーズした。
静止画のような無人の公園で、私たちも動かなかった。
薄いレースのような雲が、夜空を通り過ぎていく。
「……あ」
私は夜空を見渡した。
「月が、ない」
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