16人が本棚に入れています
本棚に追加
「……今夜は、新月なんだね」
部屋の明かりを消す時のようにひっそりと、千堂さんは言った。
「るなちゃん」
「……はい」
「どうしたらいいんだろう」
千堂さんの声に、抑揚がどんどんなくなっていく。まるで完全に一日が終わって、真っ黒な夜が始まる時のように。
「好きだ」
と、千堂さんは言った。
「るなちゃんも、おれのことが好きだと思ってた。でもおれはひよりと、付き合ってて……全部、知ってたんだよね」
「……はい」
「……別れようかと思ってる。ひよりとは。もう」
千堂さんが私を見つめているのが、分かる。けれどこの黒い夜空から、目が離せない。
「おれは。もうるなちゃんしか、愛せない」
月が見たい。あの真っ赤なスーパームーンが、見たい。
もしもあの赤い月光を浴びたら、私は怪物になれるだろうか。
形式ではなくて、本質。
この服を脱ぎ捨てて、この体からも自由になって、私は怪物になれるだろうか。
「るなちゃん」
振り返って、千堂さんを見てしまった。見るたびに、私は千堂さんのことをよく知らなかったのだと思い知る。千堂さんの瞳。千堂さんの鼻。千堂さんの唇。
最初のコメントを投稿しよう!