月光と怪物

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「……今夜は、新月なんだね」  部屋の明かりを消す時のようにひっそりと、千堂さんは言った。 「るなちゃん」 「……はい」 「どうしたらいいんだろう」  千堂さんの声に、抑揚がどんどんなくなっていく。まるで完全に一日が終わって、真っ黒な夜が始まる時のように。 「好きだ」  と、千堂さんは言った。 「るなちゃんも、おれのことが好きだと思ってた。でもおれはひよりと、付き合ってて……全部、知ってたんだよね」 「……はい」 「……別れようかと思ってる。ひよりとは。もう」  千堂さんが私を見つめているのが、分かる。けれどこの黒い夜空から、目が離せない。 「おれは。もうるなちゃんしか、愛せない」  月が見たい。あの真っ赤なスーパームーンが、見たい。  もしもあの赤い月光を浴びたら、私は怪物になれるだろうか。  形式ではなくて、本質。  この服を脱ぎ捨てて、この体からも自由になって、私は怪物になれるだろうか。 「るなちゃん」  振り返って、千堂さんを見てしまった。見るたびに、私は千堂さんのことをよく知らなかったのだと思い知る。千堂さんの瞳。千堂さんの鼻。千堂さんの唇。
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