月光と怪物

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 高校生の姉に、恋人ができた。きっとこれが人生初めての恋なんだろう、姉は浮かれていた。デートの度に、私は姉にのろけ話を聞かされた。映画を見たこと。カフェで半日つぶれたこと。満月だったので、ただひたすら歩いたこと。  まだ恋なんてしたことのない中学生の私には、カフェで半日男と二人、という時点でなんだか異次元であった。高校生になったらそんなこともできるのか。いいな。と普通に思いながらその話を聞いていた。  ただ最近は、正直聞きたくない。私には姉に、後ろめたい気持ちがある。  実は私は、姉の恋人に、会っているのだ。姉の預かり知らぬところで。  かと言って、そんなにやましい話ではない。姉に隠れてこそこそ会っているわけでは、ない。なぜなら姉の恋人は、私の中学校のそばのコンビニで、店員として働いているからである。  向こうは多分、私が姉の妹であることを、知らない。私は姉が写真を見せてくれるので、知りすぎるくらい知っていたが。何なら頬にキスする時の、甘い甘い表情ですら。 (千堂さん)  私は心の中で、呼んだ。すると、呼んだタイミングで千堂さんは振り返った。 「いらっしゃいませー」  言いながら背を向けた。
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