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「あ、あっ……こんにちは」
「こんにちは。いや、てかこんばんは、か」
まだ外は明るいが、午後七時を回っていた。
「これから、バイトですか?」
「いや? 今日はこれで終わり。結構イレギュラーなシフトなの。そっちこそ今日は遅いね?」
「あ、学校で、残ってて」
「そう。休みなのかなって思ってた」
一緒にコンビニを出た。
「見て」
「……あ、月」
満月だ。
満月は怪物の目のように赤かった。
「スーパームーン」
千堂さんが言った。
「スーパームーン、って、魔力高そうだよね」
「あ。私も。怪物みたいって思ってました」
そのまま近くの公園まで行って、しばらく月見をした。公園には天体ショーを楽しむ親子連れが、何組かいた。
「そうだ。名前、何ていうの」
月の下で見る千堂さんの黒髪は、乱雑で艶めいて、まるで悪い天使のようだった。
「るな。野本るな」
あえて名字も伝えてみた。千堂さんの表情は、特に変わらないように見えた。
「るなちゃん」
冷たくなった手をさするように、千堂さんは言った。
「月のきれいな夜に、生まれたの?」
「え?」
「ルナって、月っていう意味だから。フランス語では」
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