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「……あ、違うと思う。瑠璃のルに、奈良のナだから」
「そっか」
「うん」
私は月ではない。
私は怪物みたいな、悪い生き物ではない。
ないはずだ。
「おれは、月なんだよね」
と、千堂さんは言った。
「おれは、千堂みちるって言って。満月の満で、ミチル。満月の夜に生まれたんだって」
知ってる。
あなたの名前も。その由来も。姉が全部教えてくれたから。
私の姉は、あなたの恋人なんです。
どうしてもそう言えなかった。
迷っているうちに、千堂さんは私の手を取った。
月が隠れていく。
私は、千堂さんの手を、ぎゅっと握った。
そして、キスした。
うやうやしく、西洋のおとぎ話のように、千堂さんと私はキスしたのだった。
あれは、満月の魔力のせいだ。
そう思いたかった。
だけど決してそうではないことも、よく分かっていた。
千堂さんと私は、約束を交わした。私は水曜日だけ、千堂さんに会いに行く。けれどコンビニに入るわけではない。満月を見た、あの公園で待ち合わせするのだ。千堂さんは水曜日には、バイトも他の用事もなかったから。
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