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貞治は怒りを必死に抑えながら、唇をぷるぷると震わせて「待つ」と言った。
「もう栗がのうなって、作れんわ」
「は」
「今日は何でか、よお売れたでねぇ」
貞治の脳裏に、美味しそうに栗まんじゅうを頬張るレポーターの顔が浮かんだ。
それから、ぎゅっと拳を握りしめて、憤怒の形相で外へ出た。
これ程までに怒りに満ち溢れたのも、彼にとっては初めての経験だった。
足は荒々しく地を弾み、息は音を伴って吐き出された。
痙攣した頬は、まだ彼には少しばかりの理性が残されているのだと、躍起になって訴えかけていた。
貞治には欲求に対しての免疫がなかった。
理性の限界はもうすぐそこまで来ていた。
四店舗目の『夢見屋本店』に着くと、貞治は怒りをそのままぶつけるように「栗まんじゅう」と叫んだ。
店員は三人。
彼らはそれぞれ目配せして、その中で一番若い男の店員が「栗まんじゅう、お幾つでしょうか?」と言った。
「あるだけ、全部」
店員は困ったような顔でショーケースに並ぶ栗まんじゅうを数えて、「十四個ありますが」と言った。
「買う。全部買う」
これで間違いなく食えるはずだと、貞治は思った。
十四個もあれば、この後に少年が一つくれと言ってきたところで十三個も食える。
これで私の欲は満たされる。
貞治はようやく平静を取り戻し、レジの前で財布を出した。
「えー、三百円が十四点で、四千二百円になります」
貞治は財布を開いて冷や汗をかいた。
金を下ろすのを忘れていた!
財布には、五百円玉が一枚と十円玉が四枚、岩の下に隠れる虫のようにひっそりと入っているだけだった。
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