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ひとしきり笑った私は、謝罪の言葉を口にしてから少しぬるくなったカクテルに口をつけた。
「お前なぁ、子供の名前聞いといて笑うなんてひどくないか?」
「ご、ごめん。笑うつもりは全然なかったんだけど、やっぱりヒロ君の選んだ人だなって思っちゃって」
やっぱり、ヒロ君の横にいるのは私じゃないんだと思い知らされて。だけどそれが悲しくもなく、納得できると感じたからだ。
「嫁は、似てるよ。ユミによく似てた。甘え上手じゃなくて、ほんとは寂しいのに、寂しいって言えずにそっと自分の中に押し込める」
飲み切ったグラスの氷がカランと音を立てて溶けた。すぅと水滴がグラスに沿って一本の線が描かれた。
「だけど今じゃぁ、ただのワガママ女。ガキが生まれてから余計に拍車がかかってこうやって月に何度か羽をのばしてるってわけ」
両手を広げては羽ばたく仕草をした。その時ジャケットの中のシャツポケットが膨らんでないことに気づいて思わず、煙草やめたんだねと呟いた。
「あぁ、子供が産まれるって分かった時に絶ったよ」
「私が何度も辞めてって言ったのに辞めれなかったのにね。愛のチカラって凄いんだね。てか冷やかしって言ってたのにやっぱり遊びじゃない」
次の飲み物を選ぶためにメニューを手に取って眺めていれば、強い視線を感じる。
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