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駅までの道を急ぎ足で歩く途中で、携帯を耳に当てた。1コール、2コール、プッとコール音が消えてもしもしと少しよそ行き声の彼に、まだ周りに人がいるのだと分かる。
「…たい。」
「ん?ごめん電波ちょっと悪くて聞こえない」
「いま、すぐに会いたい…」
しばしの沈黙に、ワガママすぎたかなと思い、やっぱり大丈夫と言おうと息を吸ったときに彼から返事がやってくる。
「俺もだよ。すぐ向かうから」
プッと電話は切れて今度こそ無音になったソレを私は暫く耳につけたままその場に立ち尽くしていたが。ふと我にかえりソレをカバンの中へ放り込んで、駅へと駆け出した。
なんとか、電車に乗り込みいつもの駅へと向かう。いつもならすぐに着いてしまう駅の区間が今日はとても長く感じた。
駅へ着き、ドアが半分しか開いていないのに強引にプラットホームに降りて階段を駆け上がる。履き慣れてないヒールということもあって、いつもよりも慎重に、かつ急ぎめでヒールを鳴らした。
定期券を取り出してかざして改札口を出た所に、彼の車を見つけた。約束の時間よりもだいぶ早く電話したのにどうしてだろうと思いながらも彼の元へ駆け出した。
「あ、きたきた。貴女がリョウ君のお嫁さん?」
車の影から現れた人。それはあの電話越しで聞こえてきた女の人の声と似ていて、そうだと言わんばかりのリョウの焦った声。
「あ、ちょっとカエデさん勘弁して下さいよ〜」
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