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ゲホゲホとあまり美しくない咳音で思いっきり咳き込んだ私に、悪友は大丈夫と聞きながらも私の横へ行こうと気はないらしく。正面から私を心配そうに見つめてくれていた。心配してくれるなら横に来てくれよという私の思いとは裏腹に座って欲しくない方の男性が私の横へ腰掛けて背中をさする。
さすられた時に肩が跳ね上がりつつも何とか咳をとめられた私は、最初の一言をどうするかぐるぐると考えて、時間を稼ぐために、少ししか残っていないグラスに手を伸ばした。グラスに残ったワインを飲み干してから口元を拭って、息を吸った。吐くと同時にとりあえず社会常識的に感謝の言葉を紡いだ。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
その言葉を聞いて良かったとホッとしたように昔とあまり変わらない目元をくしゃりとさせ微笑んで背中から手を離した。私が咳き込んでる数分のあいだに前の2人は何故か異常に盛り上がっていてもう入り込めないことを悟った私は、ワインのお代わりをもらった。
「久しぶりだな。」
「えぇ、お久しぶりです」
婚活パーティーには似合わないほど空気感の違う私たちの会話は周りとの温度差が分かるほどなのにそれに気づかない周りはそれだけ浮かれているのだ。出会いの場がない男女にとってここはきっとパラダイスなのだろう。もしも彼じゃない別の人ならば今まで通りに適当に話に相槌をうっていれば何事もなくことなきを得ていたはずなのに。どうしてこのタイミングで出会ってしまうのだろう。
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