瑣末な悲劇

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ファミレスから帰った夜。 「離婚することになったから」 冷凍庫からアイスを取り出しているときに告げられた。私にもアイスちょうだいと母は、平静を装いこちらを向く。突然のことに呆気に取られ何も言えなかった。母はさらに言葉を付け足すように話す。 「あと、あなたはお父さんと住むから」 「は?」 「アイスちょうだい」 てっきり私は母と家を出るのかと思っていたもので困惑した。 「なんで?」 天地がひっくり返ったような感覚に陥った。私の根っこは母の方にくっついているものかと思っていたのに、そう思っていたのは私だけだったのだろうか。結婚とは異文化と暮らすことと聞いたことがあるけど、私の故郷は母であって、父が異文化ではないのか。日本人だと思っていたら、あなたロシア人よ。と告白されたような衝撃を受けた。もっと言えば、人間だと思っていたら、宇宙人だよと言われたような。宇宙に放り出された気分だ。 未曾有の出来事に呆けていると母は冷凍庫からアイスを2つ取り出した。 「明日には出てくから。味噌汁作ったから食べてね!おやすみなさい」 僕にアイスを渡すでもなく、二つ持ったまま外へ出て行った。 このままここへは帰ってこないのだろか。明日も明後日も。秋になったら紅葉を見に行こうという約束はどうなるのだろうか。2本のアイスは一人で食べてしまうのだろうか。この味噌汁の鍋は、食器は誰が洗うのだろうか。というか、明日には出ていくからと言って今出ていくのはどういうことだ。 気が付いたら味噌汁をお椀によそっていた。別にお腹が空いていたわけではない。母の最後の味噌汁と思ったからだろうか。なぜ今味噌汁を飲もうとしたのかは自分でもわからない。大した理由などないのかもしれない。泣くでもなく、絶望するでもなく、ただ心にぽっかりと穴が空いたものを満たすために味噌汁を啜る。味がしない。なんとなく味がしないと一人でつぶやいてみた。思い返せば家では一度も文句を言ったことがなかった。最後にたった一言だけでも文句を言っておけばよかったな。 そんな後悔を埋めるように粛々と飲み続け、空いた穴を満たしていく。 「濃っ!」 沈澱した味噌の塊に思わず一人笑った。 私の乾いた笑い声が部屋に響いた。
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