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「私も。仕事とは無関係の話がたくさんできて、ホントにリフレッシュできた感じ。それにご馳走にもなっちゃって、ありがとう。割り勘でもよかったのに」
「いいよ、かっこつけたいんだから」
別れ際、店の前で言葉を交わす。ちょっとした名残惜しさを感じるくらい、あっと言う間の有意義な時間だった。
「あのさ」
それじゃ、と言おうとした時だった。不意に手を掴まれて、私はその手から、ゆっくりと健一の目へと視線を移す。
「俺、理紗子と別れたこと、後悔してるんだ」
店の灯かりを半身に受けた健一、その真剣な顔の輪郭に影ができている。そして、私が「え」と聞き返す前に、言葉を続けた。
「今日、理紗子とまたこうして話してみて再確認した。俺はきっと、理紗子みたいな女じゃないとダメなんだって」
「私みたいな……って?」
「……自立した、いい女、ってこと」
「ふ、なによそれ」
私が笑うも、健一はまだ真顔で私を直視したままだ。その目になんとなく憂いを感じ、年齢相応にいろいろと経てきたのだろうことを思わせる。そして、それが彼のひとつの色気にもつながっているような気がした。
「とにかく、また会いたい」
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