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「あいかわらずムカつきますね」
「え?」
駅へと渡る横断歩道、そこで赤信号になって、ちょうど立ち止まった時だった。穂高君の顔が一気にアップになって、互いの鼻の先が斜めに当たる。
「…………」
キスされる。そう思って驚き、目を見開いたままでいると、唇が触れる直前で止められた。
「逃げもしなければ目も閉じない。リアクション、無ですか?」
そして、まるで何事もなかったかのように、ゆっくりと顔を戻す穂高君。
「いやいや、驚いたけど」
「されたらされたで、どうってことない感じですよね、芦川さん」
「キャーって言ったり、赤面したりしたほうがいいの?」
「ハハ」
想像したのだろうか、穂高君は前髪をくしゃりとしながら笑った。おかげで目元にシワが寄ったのがわかり、その意外と可愛い笑顔に「お」と思う。
「すげー腹立つ。ていうか、俺、20代とはいえアラサーだし、いい歳だって前も言いましたよね?」
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