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【第一部】1
「そうそう、先日の提案を企画課のほうにも上げてみたんだけど、好感触だったよ、芦川さん。さすが目の付けどころが違うね」
「あぁ、その件については、芦川さんじゃなきゃダメだわ。あそこの取引先は、芦川さんご指名だからさ。あ、いたいた、ちょうどいいところに」
「芦川さーん、取材依頼がきてます。えーと“新興国の健康意識の変化”についてだそうです。芦川さんのスケジュール的には……」
廊下からフロアのデスクに着くまでに、何度も呼び止められる。ようやく話が終わって椅子に腰掛けると、今度は斜め前でパソコンをカタカタしている塩顔の男が、
「アイドルみたいですね」
と、ひとり言のように聞いてきた。
彼は穂高(ほだか)君といって、海外赴任から半年前に戻ってきた、私の6つ下の後輩だ。前髪が長いから、目が合っているのかもわからない。
「ありがたいことだわ」
マイボトルのホットルイボスティーをひと口飲んだところで、また背後から肩を叩かれる。
「芦川さん、月次の営業報告の件でちょっと相談したいのですが」
「わかった。スタンディングデスクがちょうど空いてるから、そこで話そう」
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