マリオネットの自分らしさ

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私は歌う、自分の歌いたい歌を 私は踊る、自分の踊りたい踊りを みんな、私の歌を聴いて、私の踊りを見て この舞台は私が主役、私が、私が…… 「わがまま」「うざい」「鬱陶しい」 突然聞こえてきた声に動きを止め振り返る そこには、多くの人形達が並んでいて、皆私を睨みつけている 先程の言葉はその人形達が言ったのであろう それは、目立とうとしすぎた私への怒りなのか それとも、もっと何か別の意味があったのだろうか でも、例えどんな理由だろうとその言葉と皆の視線は、 私が歌って踊るどころかその場にいることすら許さない、強い拒絶の感情が籠っていることだけは確かだった 初めて向けられたあまりに強いその感情が怖くて、私はその場から逃げ出し、慌てて舞台袖に隠れた 舞台の方を見ると、皆は私を追い出したことなどまるでなかったかのように、いつも通り歌って踊っていた あまりにも自然なその様子は、私は初めから舞台にいてはいけない、皆にとって邪魔な存在だったのだと暗に示していた 一体何がダメだったのだろうか 何がいけなかったのだろうか どうすればまた歌って踊ることを、舞台に上がることを許してくれるのだろうか 考えて、考えて、考えた 悩んで、悩んで、悩んだ だけど、どれだけ考えて、どれだけ悩んでも答えは出てきてくれない それどころか、考えれば考える程に、悩めば悩む程に、舞台に上がるのが怖くなっていく また否定されるのが怖くて足が動かせない また孤立するのが怖くて声が出せない だけど舞台や劇場から逃げ出すことは、人形にとって死そのもの 『でも、舞台から完全に降りていなくとも、 舞台の上で楽しそうに歌って踊っている他の子を、舞台袖で眺めることしかできない今の私は、本当に生きいていると言えるのだろうか?』 答えの出ない問いが頭の中でグルグルと踊り続ける 『たった一度拒絶された程度で歌も踊りもできなくなるなんて こんなこと、舞台(ここ)にいれば何度もあるはずの些細なことなのに たった一回でこの状態ならこの先はもっと辛くなる、耐えらないほどに だったら、いっそのこと……』 誘っているような、諭しているような言葉が頭の中で歌い続ける 考えれば考える程に悪い考えばかりが浮かんでくる 次第に皆の歌声も、流れてくる音楽も、踊りに合わせて鳴り響く足音も、 何もかもが私を責めるような音に聞こえ始めて堪らず耳を塞いだ 嫌だ、辛い、苦しい、助けて、誰か、誰か助けて 誰でもいい、誰でもいいから私を舞台の上にひっぱり出して 歌っていいよって、踊っていいよって、舞台に(生きて)いてもいいんだよって…… 「ねぇ、私と一緒に踊らない(親友にならない)?」 あまりにも唐突に聞こえてきたその言葉に驚いて顔を上げると、優しく微笑み手を差し伸べる人形(あなた)がそこにいた その笑顔は、その言葉は、差し出されたその手は、苦しんでいた私を優しく包んで、私の何もかもを許してくれるような 私がずっと欲しがっていたぬくもりそのものだった 生まれて初めて向けられたその純粋なぬくもりに戸惑いながら、おずおずと差し出された手を取る すると、パッと輝くような笑顔を浮かべて、あなたは痛いくらいに強く手を引いて、私をスポットライトの照らす舞台の一番前まで連れ出した その瞬間、周囲の人形の怪訝な視線が一斉に突き刺さる だけど、あなたはそんなことなんて一切気にせずに歌い始める それどころか、拒絶された恐怖が蘇って身動きが取れなくなっている私の手をもう一度取って、明るく言い放つ 「ほらほら、一緒に歌おうよ あなたが歌ってくれなきゃ、一緒に踊ることだってできないよ? せっかく出てきたのになんで動かないの? まさか、歌い方も踊り方も全部忘れちゃった? もしそうなら、今から一緒に思い出そうよ せっかくの舞台(人生)なんだから、全力で楽しまなきゃ損でしょ?」 「うん……うん、うん!」 長く舞台に上がってなかったせいで、歌も踊りも随分と下手くそになってしまった あなたに合わせるだけで精一杯 だけど、あなたはそれでもいいんだよと言うように、満足げに笑いかけてくれる 誰かと一緒に歌うなんて初めて 誰かと一緒に踊ることも初めて でも、今まで歌ってきた中で、今まで踊ってきた中で一番、一番楽しい 他人の視線も、言葉もいつの間にか気にならなくなっていた ずっと舞台袖で願っていた 『また舞台に上がりたい』 あなたが手を取って、引っ張り出してくれたから叶った あなたと一緒にいれば、私は私でいられる あなたが私を救い出してくれた、暗い舞台袖から あなたのおかげで、一緒に踊ってくれる仲間(友達)も増えた あなたは私の救世主、あなたは私の親友 あなたとならいつまでも一緒に、楽しく、歌って踊ることができる あぁ私は今、なんて幸せなんだろう
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