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商魂逞しい母親
「あれ?ここで間違いないよな?」
思わずフリオーソはそう呟いた。懐かしい建物の並びに見たことのある街の人、小さな頃に遊んだ町の大木、どれもこれもが熟知しているものなはずなのに、たった1箇所だけ、自分の生家だけが姿を変えていた。その建物の外観は家ですらなくなっていたのである。
「大勇者のそだてかた、教えます」
建物にはそう書かれた木彫りの看板が掲げられ、入り口近くにある書棚には
「大勇者のそだてかた」
と背表紙に書かれた本がズラリと並んでいた。入り口には若い女性が沢山詰めかけており、入り口を取り囲んでいる。フリオーソが近くに寄ってみると、女性達は皆左手の薬指に指輪をつけていた。
「あらフリオーソ、おかえり」
久しぶりに聞く母親・ローサの声だった。魔王を倒して無事によく帰ってきてくれたね、とフリオーソをねぎらう言葉も、心配していたのよ、という母心がこもった言葉も、顔が見れて嬉しい、という喜びの言葉も一切なかった。ローサは目の前の客に向かって本を売ることに必死なのか、すぐさま客の方へと視線を移した。
「あ、あの方が大勇者様?」
客の中の一人がそう言い、フリオーソの方へと顔を向けた。すると、
「あ!大勇者様よ!」
「え?どこ!?どこ!?」
と客が皆次々と声を上げ、場は一気に騒然となった。フリオーソはあっという間に女性達から取り囲まれた。
「こんな立派な勇者様を育て上げるなんて、さすがローサ様だわ」
「私も息子のことをこんな立派な男の子に育て上げたいわね」
女性達は口々にそう言う。あたかもローサが勇者で、フリオーソは飾り物みたいな言い草だ。
「さぁ、皆さんも立派な子育てのためにさぁ、この本をぜひ読んでください!」
ローサの声とともに、書棚の本が1冊、2冊と手に取られていき、そのかわりに店に設置されたカウンターには金貨が何枚も何枚も積み重ねられていった。1冊50オーラム、もう少しお金を足せばキルトアーマーが変えてしまうほどの値段設定だ。しかしそれにも関わらず用意されていた本は1時間もしないうちに全て売り切れてしまった。そして売り切れと同時に客も皆フリオーソやローサのもとをあとにしていった。
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