商魂逞しい母親

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「やっぱり読み通り。しっかり売れたわね」  ローサは満足げな顔でそう語るが、フリオーソはその様子を見て戸惑いを隠せない。 「これは、どういうこと?」  フリオーソはローサに問いかけた。 「どうもこうもないわよ。フリオーソという立派な勇者を育て上げた私の功績を本にまとめたのよ」  涼しげな顔でローサはそう言うが、フリオーソとしては心中穏やかではない。 「どうして一言も声をかけてくれなかったんだ?」  フリオーソはそう尋ねたが、ローサは意に介さない。 「だって、フリオーソが帰ってきた瞬間が一番本を売りやすいタイミングでしょ?声をかける暇なんてないじゃない。いくら活版印刷が普及してると言ったって、本はそう簡単に作れないわ。もうそろそろ大魔王を倒しそうだなという頃合いを見て印刷屋に持ちかけて、本を作る。本当にベストのタイミングだったわね」  ローサは涼しげな顔でそう言い放った。 「さぁ、明日は追加の本も届くし、しばらく忙しいわね。あ、今日の夕食は市場の商人さんがパンを届けてくれているから適当に食べてね」  ローサはそう言い残すと、そそくさと家の中へと戻っていってしまった。  フリオーソが魔王を倒すための旅に出たのは15歳の誕生日のときのこと。フリオーソに白羽の矢を立てたは国一番の占い師・ザハンだった。ザハンはフリオーソに秘められた聖なる素質を見抜き、この世界で唯一、幻の聖剣デュランダルを装備できることを予言した。夫を魔物との戦いで亡くし、女手ひとつでフリオーソを育てたローサは、まだ未熟な年齢にもかかわらずフリオーソに白羽の矢が立ったことでたいそう狼狽(うろた)えたという。そして旅立ちの日には 「このお守りを、私だと思って肌身離さず持っていて。この中には真実を映し出す魔法の水晶が入っているの。きっと、いつか必ずこのお守りがあなたを守ってくれるから」  と言い、赤い袋に入った小さな水晶を3つ、涙を流しながら握らせたのだ。フリオーソが魔王を倒す旅は3年以上にも及んだが、そのときのローサの手の温もりは一度たりとも忘れたことがない。それだけ息子を思っていたローサが3年余りの月日を経たら息子の帰還よりも本の販売を優先するようになっているなど、フリオーソには全く想像がつかなかった。 ーーお母さん、どうしちゃったんだろう?  フリオーソはこの思いとともに、その場に立ち尽くしてしまった。
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