魔法のペンダント

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 小さい頃の夢を見ました……。  お父さんから『魔法のペンダント』を貰った、あの日の夢。  お家の中で転び、箪笥に頭をぶつけてしまって。  痛い事よりも、声を出して泣けない事が悲しくて。  誰も気付いてくれない事が寂しくて。  必死に一階のお店に居るお父さんの所へと行きました。  そんな私を見てお父さんは慌てて抱きしめてくれましたね。  優しく……。  そして力強く……。  そのあと私の首に掛けてくれたペンダント。  銀色のピカピカと光り輝く綺麗な筒が付いた『魔法のペンダント』 【これは笛と言って、しのぶが悲しい時や苦しい時に、お口に咥えてフ~!っとするだけでお父さんに気持ちが伝わる『魔法のペンダント』なんだよ】  嬉しくてその日からは寝る時も肌身離さず首に掛けていたのを覚えています。  お父さんが後ろを向いてる時でも銀色の筒をフ~ってするだけで振り向いて笑ってくれる。  お父さんがお店に居る時でもフ~ってするだけで二階に上がって来て頭を撫でてくれる。  いつでも大好きなお父さんの笑顔が見られる『魔法のペンダント』  転んで痛い時でも。  お昼寝から目覚めて寂しい時でも。  いつも魔法が私を救ってくれた。  そう……あの時も……。  お父さんやお母さん以外には『手話は通じない』と知ったあの時……。  お店の前にあった小さな公園。  同じ年頃の子が数人居たので勇気を出して【遊んで】って言ったのに。  なのに誰も返事をしてくれない。 【私、名前、しのぶ、遊ぼ、一緒に】  何度も何度も手話でお話したのに。  不思議そうな目で見られるだけで無視をされる……。  どうしてみんな何も言ってくれないの?  どうしてお口をパクパクさせるだけで答えてはくれないの?  悲しくなって泣き出すとみんなは離れて行った……。  一人取り残された私は『魔法のペンダント』を力いっぱい吹きました。 【お父さん! お父さん! お父さん!】  魔法は直ぐに効力を表し、お店からお父さんが来て私を優しく抱きしめてくれた。  涙を拭いた後、膝に乗せて一緒にブランコで遊んでくれた。  そして、周りの人には私の言葉が通じない事を教えてくれた……。  いいの……。  私、お父さんとお話できたらそれだけでいい……。  中学生になった時、一度だけ魔法の効力が無くなった時がありましたね。  軽い反抗期。  何もかもが嫌になってお父さんに反発して。  どうしてあんな事を言ってしまったのか。 【私みたいな障碍者が娘で悪かったわね! お父さんだって嫌だって思ってるんでしょ! 耳が聞こえる普通の娘の方が良かったんでしょ!!】  お父さんは顔を真っ赤にして怒って……。  思えばお父さんに本気で叩かれたのって、あの時が初めてだったかもしれませんね。  自分のお部屋に戻ってから後悔の念に苛まれて。  謝りたいけど謝れなくて……。  魔法の力を借りようとペンダントを握り締めて吹いてみたけど。  ……。  ……。  吹いてみたけど何も起こらなかった……。  何度も何度も吹いたのにお父さんは来なかった。  涙が溢れてきて。  悲しみに押しつぶされそうになって。  そっと階段をおりて居間を覗くと……。  お父さんは私を叩いた手を見つめて泣いていました……。  私は魔法が効かなくなるくらい酷い事をお父さんにしてしまったんですね。  ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!  本心じゃなかったんです!  私、お父さんの娘じゃなきゃ嫌です!  私以外の子がお父さんの娘だったらなんて考えるのも嫌です!  お父さんは私だけのお父さんじゃなきゃ嫌です!  ごめんなさい……。  馬鹿な事を言って本当にごめんなさい……。  泣きながら謝る私をお父さんは優しく抱きしめてくれました。  お父さんの胸に顔を埋めながら、私は魔法のペンダントをそっと吹いて。  そしてお父さんの顔を見上げました。  涙でグシャグシャになりながら優しく微笑むお父さん……。  よかった……。  魔法が戻ってきた……。  我侭な私に愛情を注いでくれたお父さん。  お父さんのお蔭で私は掛け替えのない人と出会う事が出来ました。  もうすぐ私は大好きな彼の元へと嫁ぎ。 『妻』となり……そして『母』となるでしょう……。  でも……。  それでも私は……。  いつまでもずっと、お父さんの『娘』です……。
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