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「ただいまーっと」  午前中の配達を終え、メイサは昼休憩のために、店へと帰ってきた。食事を取った後、午後の業務となる。 「あれ……?」  メイサは店内で首をかしげた。いつもなら、この時間にはまだ客がいて、ミンタカがてきぱきと働いているはずだが、今日は誰もいない。 「メイサ。こっち、こっち」  見ると、生活スペースへとつながるドアから、ミンタカが手招きしていた。その隣には、真顔のアルカイドもいる。 「特別な来客があって、今日は早めに昼休憩になったの」 「特別な来客? 一体誰だ?」  メイサが尋ねると、ミンタカは苦々しい表情でこう答えた。 「勇者カストゥラよ……。シェダル帝国の」  カストゥラはシェダル帝国の若き勇者で、敵を容赦なく切り捨てる美麗な英雄でもある。しかし、メイサはやミンタカは切り捨てられた側であり、彼が帝国の勇者というだけで、一種の憎悪のようなものを覚えていた。 「帝国の勇者様が、こんな田舎町に一体何の用があるんだよ」 「分からない。ベラトリクスさんが相手をしているんだけど……」  帝国の勇者が、何故このようなところに? 良く分からないが、メイサは嫌な予感がした。 「カストゥラたちは、奥の客間にいるんだな?」  ミンタカはうなずくのを確認すると、メイサはアルカイドの手を引いて奥へと向かった。  客間へ向かうと、あまり警戒されていないからだろうか、外に見張りの兵士はいなかった。三人は客間のドアの隙間から、こっそりと会話を盗み聞く。 「……我々が多くの敵国と戦っていたことは、勿論ご存じですよね?」  美しい声で、カストゥラがベラトリクスに向かって話し掛けている。 「我々は世界平和のため、必死に武器を取りました。しかしその裏で、今は亡きとある敵国が実験をおこなっていたのです。それは……」  ここで、彼は一旦言葉を切った。手を組みなおし、そして低い声で言った。 「『破滅の予言』の再現です」  破滅の予言。古代からこの世界に伝わる言い伝えで、天から舞い降りた神の七つ子が、すさんだ世界を破滅させ、新たな世界を再構築するというものだ。メイサも幼い頃に母から聞かされたが、詳しい内容は覚えていない。 「私も驚きました。まさか、世界そのものを滅ぼすようなことを目論んでいるとは。だが、これは事実です。現に、各地で兄弟を探す、紫の瞳の青年たちが出現しています。我々帝国軍も駆逐に尽力していますが、相手は非常に強力で、未だ倒せずにいます」 「まどろっこしいね。一体何が言いたいんだい?」  ベラトリクスがイライラしたような声を出すと、カストゥラは本題に入った。 「我々に協力してもらいたいのです。と言っても、やることは簡単です。あなたの家にいるアルカイドを、こちら側に引き渡してください」 (アルカイドを!?)  メイサは驚いて目を見開いた。帝国がアルカイドを探しているとは思わなかったからだ。 「言い伝えによると、彼女は七つの子の末娘、『空の器』です。空の器は感情を持たず、単体では何の力も持ちませんが、終焉の際に兄弟の力を一身にため込み、世界を破滅させます。つまり、破滅の予言を実現させるためには、空の器が必要不可欠なのです」 「つまりあんたは、あの子を殺そうと考えているんだね!?」  ベラトリクスが激昂して、椅子から立ち上がった。 「ふざけるんじゃないよ!!」 「ふざけているのは貴方です。このままアルカイドを野放しにしていると、いずれ兄弟と共に、世界を破滅させるのですよ?」 「そんな馬鹿なこと……」 「そもそも貴方には、彼女を差し出す以外に方法はないはずです。それとも……、帝国に逆らうと言うのですか?」  カストゥラの冷たい声色に、ベラトリクスは黙り込んでしまった。 (嘘だろ…? アルカイドが、殺される……!?)  メイサには、カストゥラの話の真偽は分からなかった。ただ一つ確かなのは、このままではアルカイドが殺されるということだ。 「……っ!!」  アルカイドは渡さない。そう思った時には、メイサはアルカイドの手を掴んで走り出していた。 「メイサ!!」  廊下を駆ける足音と、驚いたミンタカの声で、客間から帝国軍の兵士が飛び出してきた。 「逃げたぞ、捕まえろ!!」  背後から聞こえてくる声を必死に振り切り、店のドアを乱暴に開ける。運良く、バイクは店の前で停めっぱなしになっていた。 「アルカイド、しっかり掴まって!」  いつの間に隠れていたのだろうか、店の背後から突如として兵士達が襲ってくる。 「行くぞ!!」 すんでのところでエンジンが掛かり、メイサはバイクを猛スピードで走らせた。
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