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訳も分からず森を抜けだしてから、一体どれ程の時間が経ったのだろう。いつの間にか、空はうっすらと明るくなり、メイサは荒れ果てた故郷・サイフに辿り着いていた。
「アルカイド、少し休もうか」
メイサはアルカイドを助けながら、力なくバイクから降りた。辺りには、かつて家だった瓦礫が散乱している。
(俺の家って、どこだったっけ……)
最早意味などないが、メイサはかつて家族と過ごした場所へと歩き出した。悲しいほどに、思い出が溢れ返ってくる。
(どうして……、俺の大切な人は、皆いなくなってしまうんだ……)
悔しさや虚しさで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
(家族だって、アルカイドだって……。俺に力があれば、こんなことには……)
――その時、背後から鋭い攻撃が飛んできた。よろよろとした足取りで進んでいたメイサは、その攻撃を耐え切ることができず、アルカイドと共に前のめりに転んでしまう。
「まさかこんなところまで来ているとはな」
……カストゥラだ。マントを翻し、漆黒の髪をなびかせながら、徐々にメイサ達との距離を詰める。彼の持つ美しい剣が、朝の光を受けて眩しく輝く。
「だが、これで終わりだ」
彼は青く澄んだ瞳を見開いて、刹那、メイサに向かって切り込んできた。
(アルカイド――!)
メイサはアルカイドを守りたい一心で、彼女をぎゅっと抱きかかえ、彼の一刀を背中でもろに受けた。
「がっ……!」
鮮血が、体を伝う。その耐え難い苦痛に、メイサはアルカイドに覆い被さり、そのまま倒れた。
「アルカ……イ……ド……。に……げろ……」
それでも、必死に彼女のことを思い、心の無い紫の瞳に話し掛けた。
「メイサ……?」
――直後、アルカイドが、初めて彼の名前を呼んだ。今まで何の感情も持たなかったアルカイドの顔が、その時確かに悲しみに揺れた。
それを見たメイサは、口元にかすかな笑みを浮かべ、その後力を失った。
アルカイドの頬を、一筋の涙が流れた。その後の彼女の反応は、全く考えられないような出来事だった。
「ああああああああっ!!」
轟くような感情が、彼女の口から溢れ出した。
「……!」
あまりの怒声に、カストゥラは一瞬驚いたような顔をする。しかし、すぐに手中の剣を握り直し、彼女に向かって振り下ろした。
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