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「アルカイド!!」  ――その瞬間、謎の声と共に激しい閃光が舞い降り、カストゥラの攻撃は相殺された。  突如現れた男性は、後ろで結んだ茶色の髪を風になびかせながら、アルカイドの肩を揺すった。カストゥラの存在を構うことなく、声を荒げて彼女に呼び掛ける。 「アルカイド、大丈夫か!?」 「お父さん、メイサがっ……!!」 「ア、アルカイド!? 何故感情が……!?」  「お父さん」と呼ばれた彼は、アルカイドの様子を見て、明らかに動揺した。自分が造り出した、完全なる終末兵器。帝国への復讐のためだけに、生み出された存在。その娘が、未知の領域に足を踏み入れようとしている。 「お父さん、私、わたし……」 「落ち着くんだ、アルカイド。俺は離れ離れになったお前の兄弟姉妹を全て見つけた。ついに、おまえが使命を果たすときが来たんだよ」  前方、後方から、複数の人物の足音が聞こえる。どうやら、彼の言っていることは本当のようだ。 「馬鹿な……!! 各地の帝国軍は、一体どうしたというのだ!?」  カストゥラは焦った声色で、迫る兄弟達に対して剣を構えた。 「さあ、アルカイド。兄弟姉妹の力を受け入れるんだ。その命と引き換えに、この哀れな世界に破滅をもたらすんだ」  混沌とする荒野の中、「お父さん」は悲しむアルカイドの耳元で、悪魔のように囁いた。  ――ぱしっ。その乾いた音に、兄弟達は目を見開いた。……アルカイドが、「お父さん」の頬を叩いたのだ。 「……アルカイド。俺を裏切るのか?」  赤くなった頬を抑えながら、彼はアルカイドを睨みつけた。震える声で、言葉を続ける。 「空の器であるお前が、自らの存在意義を否定するのか?」 「私は空の器じゃない!!」  アルカイドは、心の底から叫び声をあげた。 「私達は神の子なんかじゃない! ただの人工生命体だ! だから……、だから私は、この世界を、メイサが生きた世界を守る!!」  彼女は目をあげ、そして兄弟に言い放つ。 「私は、お父さんたちを倒す!」  ――眩い光が、アルカイドを包み込む。力の無いはずの彼女が、美しい七色の翼を背に、そこにしっかりと立っていた。繊細な弓矢が、手元に現れる。 「逆らうな、アルカイド。どのように力を手に入れたのかは知らないが、お前に勝ち目はない」  背後から、大人びた声が聞こえる。七つ子の長男・ドゥーベが、屹然とした態度で刃を向けた。 「それでも、私は……!」  アルカイドは翼を大きく広げ、空へと飛び立った。 「メイサが生きた世界を、否定したくない!!」  矢を番え、地上へと放つ。その姿は、まるで天使のようだった。
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