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深夜。灰色の雲の隙間から三日月が蒼白い顔を覗かせて笑っていた。俺たち三人は灯りを消した軽ワンボックスのホンダ・アクティの脇にうつ伏せになり、身動きひとつせずに時が来るのをひたすら待ち続けていた。
ホンダ・アクティは盗難車だ。車両ナンバーは前後ともに県外ナンバーの偽造品に付け替えてある。
うつ伏せて腹這いになった俺の真横には播磨と三木が同じように腹這いになっていた。
深夜の岸壁はさざめく波の音と時々聞こえてくる霧笛の他には耳障りな音もなく、深海のような静けさを保っていた。俺はこの静けさがたまらなく好きだ。嵐の前の静けさ。俺はこれがたまらなくて、いつまで経っても拳銃稼業から足を洗えない。きっと俺はいつか生命果てる最後の瞬間まで右手に拳銃を握り締めていることだろう。
三百メートル先に自動車のヘッドライトの明かりが現れた。明かりは揺れ動きながら接近し、二百メートル手前で停止した。
「ベンツだ。あれは中国人だな」
軍用の赤外線双眼鏡を覗きながら、播磨が言った。「そろそろヤクザたちも現れる頃だ」
播磨が腹這いの姿勢から身を起こし、腰のベルトにくくりつけていたベレッタM9を抜いた。三木もそれに倣い、ホンダに寄り添いながら屈み込んでCZ75を右手に構えた。俺も慎重に両膝立ちになりながら、懐からグロック17を取り出した。俺たち三人の拳銃はいずれも機種がバラバラだが、口径は9㎜パラベラムに統一してある。三人とも同じ口径であれば、いざというときに弾丸を分けあえる。だが、弾丸を分け合うという状況は考えうる中でも最悪の展開ともいえる。もしもそんな状況に陥ったら作戦は失敗したも同然なのだった。
「来た来た。今度はヤクザだ。車種は、あれは多分レクサスだな」
左手で持った双眼鏡を目に押し当てながら、播磨は不敵な笑みを浮かべている。
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