廻るオニオングラタンスープ

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◇ いま、あの時母がしてくれたように、私は娘を抱えて寝かしつけている。娘のいのりが自分とかぶって見える。過去の体験を鏡で見ているみたいで、胸の裏がこそばゆい。 じっといのりを見る。 出来たての大福みたいな、いのりのほっぺた。高揚して、色付いた桃みたいに美味しそう。触れてみる。すべすべのキメの細かい肌。そこにひよこのくちばしみたいな口がちょこんと付いていて、ひひひってしゃっくりみたいな息使いになっている。私もこんなだったのだろう。もちもちした小さな手を握りながら思う。母親の立場になって、初めてこの愛おしさに気がついた。母も、あの頃の私をこんな気持ちで見ていたのだろうか。だとしたら、私は母を幸せにしてあげられてたかもしれない。 だってこんなにも私は幸せなんだもの。 時代は繰り返すっていうのも満更ではなのかも。 ぼたりと一雫。いのりのおでこに落ちた。 「ママ。……泣いてるの」 いのりは目をぱちりと開いて、また不安そうな顔をする。 「あらら。おこしちゃった。ごめんね」 「ママ。だいじょうぶ?泣いてるよ?」 そう言われてはじめて泣いてることに気づく。泣き虫は治らないみたい。でもそれは悲しいからではない、嬉しいから。なんでだろう。素敵なことのように思える。 手で拭いながら、怪訝そうないのりに「大丈夫よ」と笑う。 「ママ」 「ん?」 「ママがちゃんと寝れるまで、とんとんしてあげるね」 小さな手が私の胸を叩いて寝かしつけようとする。 吸いまくったパンのスープがじわりとまた心に染みてくる。変にいびつな笑顔をきっと私はしてる。 まったく。どっちが親なんだか。 前言撤回。 私がこの子に育てられてました。 私がいのりに教わって感じたこと。へその緒の切れた先はまだ繋がっていて、続いてるのだと思う。だから母もそうだったのだろう。そして祖母の代も。たぶん。いや、絶対にそうだ。私にとって、母は強くて頼りがいのある母親像だったけれど、それは私がそうさせてた!っていま感じた。 「ふふっ」 いのりは眠い目をこすりながら「へんなママでしゅねー。はやくねましょうねー」なんて生意気いう。 なんだかおかしい。 「ふふふっ」 「あははっ」 天使の笑顔。ずっとそばにいるからね。いさせてね。
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