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◇
「ね。お母さん!今度オニグラスープの作り方教えて!」
急に突拍子もないことを言う。虚をつかれた。そういえば、同じセリフを私も言ったことがある。
最近日増しに変わってゆくいのり。
はっとするほど、うちの子ってこんなに綺麗だったっけ。
ドア越しによその子がよそ行きメイクして、おじゃましてきたみたい。
もう来年二十歳になるのだから、見違えるのも仕方ないことなのかも。
今日も元気ハツラツガール。来月からは会社の近場に越し、一人暮らしする。なのにからっと晴れやかな笑顔をみせる。今日の天気みたい。親の身としてはちょっと寂しいんですけど。
「それより荷物まとめたの?まだダンボールあったでしょ?」
「終わった。あれ、余り」
冷蔵庫を開けて、なにやら漁ってるいのり。ペットボトルのサイダー。出してわざわざ私に見せる。なんかCMみたい。
「えー?少なくない?大丈夫?」
「いいのいいの。どうせ向こうで暮らしてたら増えるんだし、部屋が狭くなるの嫌なの。お母さん、頼めば送ってくれるっしょ?」
「ちゃっかりしてる」
キッチンで娘が隣に並ぶ。私より少し背が高い。また身長のびたのかしら。
プシッと開けて口を開くと私を横目に、
「それにさ、私の部屋が空っぽだと、お母さんもお父さんも寂しがるでしょ、抜け殻だけでも置いてかなくちゃ」
あ、そうか。私の背が縮んだんだ。隣でカッコつけた子が恥ずかしがっている。あまり聞いてなかったけど。
「なにいってるの。ちゃんといるものと要らないもの整理なさい。じゃないとぜんぶ熨斗つけて彼氏のところに送っちゃうんだから」
ぶはっと吹きこぼす。はい、ご明察。やっぱり図星をついたみたい。うすうすそうじゃないかなって思ってたの。
慌てて口元ふいて誤魔化して、すっとすました顔つきになる。この子の癖だ。言い訳考えてる証拠。
『ち、ち、違う。違うー』ってきっと始まる。
「ち、ち、違う。違うー。来月から一人暮らしだから!ちゃんと自炊しなきゃって思ってたの!」
ほら。
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