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この子が料理なんて。彼氏でもできなきゃ覚える気なんて起こらない。だってものぐさなのは、私の血筋だもの。それに確信はあのセリフ。
「いのり、彼氏いるんでしょう?別に隠さなくたっていいじゃない」
「うう…」
言葉につまる。恥ずかしそうな、苦虫かんだようなような顔してる。
そんな顔もかわいいんだから。若いってうらやましい。
「魔女め……」
「いのりの考えなんてすーぐわかっちゃうんだから」
「ね。お父さんにはまだ内緒にしてて。お願い!」
「どうしよっかなー。うふふっ」
「もうー」
日曜の朝から賑やかだなぁ。なんて言って、リビングに寝癖とあくびを連れて旦那様が入ってくる。
「いのりは今日は早いなぁ、お出かけ?」
「うん。友達と遊び行ってくる。あ、そろそろ行かなくっちゃ」
にっと笑って私に目配せで合図する。
うちの旦那様はいつも蚊帳の外で、ちょっとかわいそう。
「ちゃんと栄養のバランス考えて作ってるんだからね。たまには早く帰って、ご飯の手伝いしなさーい」
「はーい」
私の小言も鬱陶しいらしく、そそくさと部屋を出ようとする。何百、何万回と繰り返してきたこのやり取り。あと何回くらいできるのだろう。
「いのり。おとうさ……」
旦那が言うが早いかドアは閉まる。元気な「いってきまー」が遠ざかる。どこへ行くのやら。
旦那様が深いため息ついてるから、今日は好物のハンバーグにしようかしら、オニグラスープ付きで。
それにしても、いのりの口から同じセリフ聞くとはまったく。驚きだ。
「うふふ」
「あれ。なんかいいことあった?」
不思議そうな顔をこちらに向ける旦那様。
「ううん。なんでも」
私の初めてのオニグラスープは昔付き合ってた元彼。だから旦那様には内緒。女って内緒が大好き。
でも、愛情は一番たくさんあげてるからね。いいわよね。
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