廻るオニオングラタンスープ

7/8

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
この子が料理なんて。彼氏でもできなきゃ覚える気なんて起こらない。だってものぐさなのは、私の血筋だもの。それに確信はあのセリフ。 「いのり、彼氏いるんでしょう?別に隠さなくたっていいじゃない」 「うう…」 言葉につまる。恥ずかしそうな、苦虫かんだようなような顔してる。 そんな顔もかわいいんだから。若いってうらやましい。 「魔女め……」 「いのりの考えなんてすーぐわかっちゃうんだから」 「ね。お父さんにはまだ内緒にしてて。お願い!」 「どうしよっかなー。うふふっ」 「もうー」 日曜の朝から賑やかだなぁ。なんて言って、リビングに寝癖とあくびを連れて旦那様が入ってくる。 「いのりは今日は早いなぁ、お出かけ?」 「うん。友達(・・)と遊び行ってくる。あ、そろそろ行かなくっちゃ」 にっと笑って私に目配せで合図する。 うちの旦那様はいつも蚊帳の外で、ちょっとかわいそう。 「ちゃんと栄養のバランス考えて作ってるんだからね。たまには早く帰って、ご飯の手伝いしなさーい」 「はーい」 私の小言も鬱陶しいらしく、そそくさと部屋を出ようとする。何百、何万回と繰り返してきたこのやり取り。あと何回くらいできるのだろう。 「いのり。おとうさ……」 旦那が言うが早いかドアは閉まる。元気な「いってきまー」が遠ざかる。どこへ行くのやら。 旦那様が深いため息ついてるから、今日は好物のハンバーグにしようかしら、オニグラスープ付きで。 それにしても、いのりの口から同じセリフ聞くとはまったく。驚きだ。 「うふふ」 「あれ。なんかいいことあった?」 不思議そうな顔をこちらに向ける旦那様。 「ううん。なんでも」 私の初めてのオニグラスープは昔付き合ってた元彼。だから旦那様には内緒。女って内緒が大好き。 でも、愛情は一番たくさんあげてるからね。いいわよね。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加