ある晴れた日に

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***  そっとお婆ちゃんの部屋を出ると、お母さんがリビングでお茶の用意をしてくれていた。 「お婆ちゃん、寝ちゃった? ちゃんとあなたの事、孫だって分かったかしら?」 「私に『私の娘の事、ご存知?』だって。お婆ちゃんの娘さんがね。中学生になって、武弘君て好きな人が出来たんですって」  私の言葉で、お母さんが飲みかけた紅茶をブッと吹き出した。どうやら本人も忘れかけているような秘密を、お婆ちゃんは毎回掘り出すみたいだ。 「やだお母さんたら、そんな昔の事を」  テーブルに飛んだ紅茶を慌てて拭きながら、お母さんが子供のように言う。その後ろで、白いレースのカーテンが風で踊るように揺れた。  晴れた日曜日の、穏やかな午後。  こんな日は決まって、お婆ちゃんは若返る。   前の時は、お母さんが高校生の時。その前は、大学生。今回は中学生まで戻ったから、いずれお婆ちゃんは、子供に戻ってしまうのかもしれない。  今は平日だけグループホームにお世話になっているけれど、老人の養護施設に移るのは、そう遠くない未来なのだろう。そして、お別れも。  その時が来るまで、私はお婆ちゃんとお話をしていたいと思う。私の事が分からなくても、私の知らないお母さんの事を、本当に大切そうに話してくれるのが好きだから。  お母さんも私の秘密を聞いたら、お婆ちゃんのように思ってくれるだろうか。  また一筋の風が吹き、窓辺のジャスミンの甘い香りが鼻腔に届いた。  こんな晴れた日は、女同士の秘密の話を。 「……ねえお母さん。お父さんには、内緒にしてね」 終
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