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『でも、どうしてもこの名前にしたかったん
です。』
『何か理由があるんですか?』
『………名前は、親が子供に初めてあげる
プレゼントだって言うでしょう?』
女はぐずり出した子供をあやしながら、まるで
その子に語りかけるように話し出した。
『私の都合でこの子には父親が居ません。
でも、私一人でも絶対に幸せにしてあげるって
決めました。
ただ、生きていたら辛いこと苦しいこと悲しいことがたくさんあります。
きっとこの子にもそれは訪れる。
もしこの先、生きているのが辛くなった時に思い
出して欲しいと思ったんです。』
ふっと女は顔を上げる。
その時、あたしはその女が誰なのか悟った。
『あなたはちゃんと望まれて生まれてきたんだよって。
こんなに愛されているんだよって。』
ずっとあたしは誰にも必要とされていない人間
なんだと思ってた。
どういう経緯かは知らないが、母親は若くして
あたしを一人で産んだ。
だから父親の顔なんか知らない。
その母親だって、あたしを産んでから暫くして病気で死んだ。
元々体が弱かったらしい。
だったら何であたしなんか産んだんだって。
誰も生まれてきたいだなんて望んでないのに、勝手に産みやがって。
ずっとそう思ってた。
こんな世界に産み落とすだけ産み落として、自分はさっさと居なくなるなんて。
あたしを一人遺していくだなんて、勝手な母親
だって恨んで憎んだ。
でも違ったんだな。
あたしはちゃんと必要とされてた。
こんなあたしでも、生きていていいのかもしれ
ない。
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