真夏の夜の逃避行

2/12
前へ
/12ページ
次へ
道端で立ち止まり、ポケットからスマホを取り出した。画面をタップして画像フォルダを開くと、サムネイルが自動的に時系列順に並べ替えられている。    一番上のサムネイルをタップすると、首の付け根くらいまで伸びた髪を金色に染め上げた少女の横顔が映った。不機嫌そうに口を尖らせている。あの子が高校生の頃の写真だ。中々写真を撮らせてもらえず、何とか隙をついて撮ったのだ。 画面を何度もスライドすると、紫色の浴衣姿の女の子が現れた。浴衣姿なのに精いっぱい高くジャンプしている瞬間で、今にも写真から飛び出してきそうな元気さだ。私が結ってあげた黒髪が、跳躍に合わせてしなっている。 確か、この写真は小学三年生の頃に撮ったものだ。 「遥香」 その少女の名前を、確かめるように口にした。香の字は、私の下の名前――香子から取ったものだ。遥香は三年前、大喧嘩した末に家を飛び出してしまった。それ以来、連絡が取れてない。 「ねえ、今どこにいるの……?」 写真の遥香の頬を、ひとさし指でそっと撫でる。 その瞬間、スマホがぶるぶると震えだし、画面が切り替わって着信番号が表示された。 電話番号を見て思わず顔をしかめたけれど、ちょうと指が通話のアイコンに重なってしまっていた。もう手遅れだ。 観念して電話に出ると、「もしもし、平坂さんですかっ?」と慌てふためいた女性の声が耳に飛び込んできで、とっさにスマホを耳元から遠ざけてた。   「今どこにいるんですか!?」 さっきの女性の優しそうなお母さんとは話し方が全然違う。呆れや怒りのこもった声だった。 そんなにがなり立てなくたっていいのに。 無視して電話を切ってしまおうか、と逡巡していると、どん、と何かが背中にぶつかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加