犬玉

｢間一髪だったんです｣
危うく、落ちてきた犬とぶつかる所だった。
｢キャン｣って鳴き声がしたんで上を見上げたんです。だから、かわせたのだと云う。
落ちる前に鳴いて報せるなんて律儀な犬だね。
野郎、落とす前にナイフで刺してから投げ落としてやがったんです。落ちて死ぬのは可哀想だからとかナントか言ってたって。あの｢キャン｣は、その時の悲鳴でしょう。
その日の晩、ベランダで争う物音がしたんで磨りガラスをみると、タイヤにひかれた夏みかんの様な犬が貼り付いていた。それからだ。
｢キャン｣と聞こえると様々な物が落ちてくる様になった。
鉢植え、物干し竿、炊飯器。

｢あの犬が報せてくれるので、今の所大丈夫です｣奴は疲れた様に笑った。