「さがしもの」

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「うーん・・・」 女は、独り言を吐きながら背伸びをし、高いところまで覗き見ていた。 「どういったお品物でしたか?もし宜しければ、一緒にお探ししましょうか?」 助けを求める横目に耐えられず、男は社交辞令で声をかける。女は、あぁ・・・と小さく呟くと、真っ黒な瞳を向けた。 「仕事道具なんです。」 「お仕事の道具・・・それは、とても大切なものですね。形や色など、どういった特徴があるか、教えていただくことはできますか?」 男が柔和な顔で問いかけると、女はバツが悪そうに下を向く。そういえば女は、何と言ったらよいかわからないと言っていたな・・・わからないことを聞いたところで解決しないのでは・・・男は、言葉選択のミスを密かに嘆いた。 「・・・感情なのです。」 「・・・え?」 「感情を捜しているのです。」 男は、空耳かと改めて聞き返したが、女は平然と『感情』と言った。 「感情・・・ですか・・・?」 ますます言っていることがわからない。立場上 客の言葉を否定できない男は、とりあえず女の言葉を受け止めることにした。 「はい。なので、形や色をよく覚えていないんです。ただ言えることは、手のひらに乗るくらいの大きさだったと思うんです。」 女は説明を終わらせると、再び棚に視線を移す。 手のひらサイズ・・・それは、女自身の手に乗る大きさということだろうか。それとも、万人に通用する大きさということだろうか。 たくさんの疑問を胸に、男も「感情」というものを捜し始めた。
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