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最終電車のアナウンスを遠巻きに、2人だけの時間が流れていく。
「・・・すみません・・・お仕事の邪魔をしてしまって・・・」
「いいえ。お客様のお捜し物が見つかるようご協力するのも、私たちの仕事ですから。」
男は、女が捜していなそうな棚を漁りながら答えた。さっきまでの奇妙な空気は何だったのだろう・・・男は、女の「感情」とやらを早く見つけてあげたい一心だった。
「・・・あの・・・」
「・・・はい?」
「・・・私は・・・あまり本とか読まないから・・・作家さんのお仕事のこともよくわからないんですけど・・・」
「・・・?」
男は、女がまじまじと向けてくる視線を痛いほど受けながら、言葉を絞り出した。
「・・・あなたの感情があれば、きっと素敵な作品が書けると思うんですよ。」
「・・・・・」
「本当に・・・本当に・・・分かってないんですけど・・・。沢山の人に受けてもらえるとか、そういうことは別にして・・・気持ちの良い部分だけじゃなくて、その裏側まで映し出すと言うか・・・その・・なんというか・・・あぁ、ごめんなさい。素人が生意気なこと言って・・・」
「・・・・・・」
女は、何も喋らない。
やがて、女の目から一筋の涙がこぼれた。
「・・・・あ・・・あの・・・」
「ごめんなさいっ・・・そうやって言われたことが初めてで・・・ずっと信用できて無かったんです。人のことが。どれだけ温かい言葉をかけられても、本当はそう思ってないんじゃないのかとか、単なる社交辞令なんじゃないのかって・・・そういった感情も手伝って、感情が溢れ出して、何処かへ行ってしまったのかもしれません・・・」
男がタオルを差し出す前に、女は手の甲で涙を拭った。
「絶対に見つけ出します。それで・・・また作品を書きたい。」
女が、勢いに任せて棚の奥に手を入れた まさにその時だった。
チャリンっ
小銭が転がるような音と共に、「あっ・・・」という女の声が響いた。
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