「さがしもの」

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「・・・ありましたか?」 「・・・はい。これです。」 女は、何かを掴むと男に見せた。 男は、女の手のひらを覗く。真っ白な女の手とは対照的な、紺と黒の中間色・・・ガラスの破片に似たものが、2 3つ転がっている。 これが感情・・・男には信じがたいものだったが、女が我が子のように感情を撫でるのを見て、安心した。 「見つかって 良かったですね。」 「はい。これで、また作品を書くことができます。」 女は、感情を大事にポケットへしまい込んだ。感情は、ポケットの中で2 3回輝くと、ゆっくりと輝きを終える。 ポケットを押さえ、女の顔は晴れていく。 「・・・あぁ・・・思い出しました。どんな作品を書きたかったか・・・」 「どんな作品を書くおつもりなんですか?」 ひと仕事終えた男は、物品引き渡しの記録報告書に視線を移す。 「えぇ・・・人間不信の女が主人公です。女は、これまで幾度となく人に裏切られてきた・・・」 一人劇を繰り広げるようにアイデアを語る女に耳を傾けながら、男は空いている欄に『感情』と記入した。 「そして、たった一人優しくしてくれた人を、殺めてしまうんです。それは他でもない、彼女の中で培われた黒い感情が溢れ出して、何が正しくて何が行けないのかわからなくなってしまったから・・・。そして、悲しく切ない惨劇が始まる・・・」 「読んでみたいです。」 「えぇ・・・・・・きっといい作品にしてみせます・・・」 ドゴッ・・・ 鈍い音と痛みに、男は倒れ込んだ。 ・・・・・・え・・・?    一瞬の驚愕と、朦朧とする意識の中、シミが付いた脚立が投げ落とされる。 男はゆっくりと視線を上げる。 女は、真っ黒な瞳で男を見つめていた。瞳だけではない・・・女の体全体から、真っ黒いモヤが滲み出している。 「お世話になりました。」
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