「さがしもの」

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「さがしもの」

「あの・・・」 喧騒がまばらになる時間帯。そのまた奥にひっそり佇む拾得物引き渡し所に、女の声はよく響いた。人は来ないと油断して惰眠を貪ろうとした男は、ぎこちなく椅子から立ち上がる。 「はいっ」 「捜しものをしているのですが・・・」 「はい。どういったお品物でしょうか?」 男は、暇をしていたことを隠すように丁寧な口調で問いかける。 「えーーっと・・・」 女は、下を向いて言葉を濁らせる。 「・・・わからないんです」 「は?」 「その・・・何かを忘れてきたのは確かなんです。でも、何と言ったらよいかわからないと言うか・・・物を見れば、わかる気がするんです。」 一体この女は何を言っているんだ・・・男は、女の気を悪くしないよう必死で意味を汲み取っていく。 「・・・お品物があるか、ご確認してみましょうか?」 男は、ガラス張りの保管棚を開け、前に女をすすめた。 「宜しいんですか?ありがとうございます。」 女は、申し訳無さと一筋の希望が混ざったような勢いで頭を下げると、棚の前に歩をすすめた。 こういった事例はたまにある。孫が電車内に忘れたまどろっこしい名前のブランドバッグを、スマホで話しながら探す老人や、忘れた物の名前を上手く口に出せない子ども・・・そういった案件では、男の立ち会いのもと保管物に近づくことは了解されている。 女は、男の視線を気にしながら保管棚を眺める。若干可哀想ではあるが規則だ。うっかり目を離したすきに別の保管物を持ち去られたとあっては、男の信用問題になる。
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