私の死体を運ぶ私

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 ――今日、私は私を殺した。  なんらおかしな話ではない。誰にだって、殺してしまいたい自分の側面ぐらいあるだろう。生意気な自分、我儘な自分、意地悪な自分、ふしだらな自分。  だから私は私を殺した。その胎に何度も何度も包丁をつきたてて。  迸る悲鳴、冷たいリビングの上で虫のようにのたうち、痙攣し、動かなくなる私の姿。その全てが終わったあとの愉悦はなにものにも代えがたい。  私の顔と一寸の狂いもないそれが、血飛沫に汚れたままこちらを見上げている。    ――ついに私は私を殺してやったのだ!  …さて、困った。  私の死体は、いつまでたっても目の前に転がったままだ。私が殺したのは私であるのだから、死体がその場に残り続けるのはおかしい。疾く、私の元に還るべきだ。彼女が奪ったものと一緒に。  時計を見れば、午後六時。そろそろ夫が帰ってくるころだ。私の死体が見つかれば、大騒ぎになる。  私は私の死体の両脇に腕を差し込んで、引きずるようにリビングから運び出す。部屋を出る直前に見えた室内は、煌々とした電灯、テレビは人気のバラエティを流し、テーブルの上には並べかけのお皿と大鍋。シチューの香りもする。  どこにでもある、夕餉の風景。  そうだ、帰ってきたらサラダを追加しよう。大好物のアボガドのサラダだ。ここ数年は作ることができなかった。夫が嫌がったからだ。  しかし今晩は特別だ、思いっきり腕を振るおう。きっとこれからは、夫も昔のように私の作ったアボガドのサラダを喜んで食べてくれるだろうから。
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