私の死体を運ぶ私

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 エンジンの音を聞きながら…ふと、私は思う。  よくドキュメンタリーなどでは、警察が怪しい車を見かけてたが逃したという話が上がる。なるほど、こんな感じだろうか。  つい、含み笑い。まさか自分がテレビで話題の登場人物になれるとは。  ――ごん、がん、ごごんっ。  トランクの中では私の死体が踊っている。さて、あれをどこに隠そう。  実のところ、あてがあったわけではない。死体を捨てるなら山か海がセオリーだろう。  思い浮かんだのは夫が保有する別荘の一つ。バブル崩壊で長く売れ残っていたのをを安く買い叩いたと聞いている。今時、別荘持ちなど大したマウントにもならないが、夫はどこまでも見栄をはりたい人だ。年一回、必ず家族でそこを訪れるようにしているし、周りにその話をひけらかす。一方で維持費が馬鹿にならないので、中は結構痛んできている。見えない部分には、とことん金をかけない人なのだ。  私は色の抜けた自分の髪を撫でながら考える。あの別荘なら高速に乗れば二時間ほどで着くし、着替えも何着が置いてある。場所は山の中だ。ちょっと辺鄙な場所にあるから、死体を隠すにも丁度いい。そのことに気付くとだんだん楽しくなってきた。本格的にテレビの世界だ。調子にのって歌など歌ってみる。そういえば、こうやって大声で歌うなどいつぶりだろうか。  ――ごん、がん、ごん。  背後で私の死体も歌っている。あれは私なのだから、私が楽しければ、やはり私の死体も楽しいのだろう。
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