EP.2 夢の日のドラマ〜Thanks for the Dream〜

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『すいませんでした――こんな話を』 急に謝り出す相模に 『いえ……そんな……私も知らなかったです……あの事故の事を……こんなに考えてた方がいるなんて』 エリも驚きながら何故か申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた 『それじゃあ――私はこれで失礼します』 相模は切り出す そんな相模の様子を見てエリは慌てる 『お話って……これだけで……良かったんですか?』 『…………はい』 『あの……まだほかにあったんじゃ?』 エリ自身、不思議な気持ちでいっぱいだった 『もういいんです』 微笑む相模 『あっ、で、でも私はあなたの事、まだよく分からないですし』 エリはいつの間にか相模についてもっとよく知りたくなっていた 『……………じゃあ、最後に念のため確認なんですが……』 『………?』 『当時の事は――全く記憶にないんですね』 『…………え?』 相模は再び真剣な表情を見せる 『そうですね………事故のショックの影響だと思います』 『その時期の事も……』 『??………事故以前の……それに近い時期の事が……おぼろげなんです』 『そうですか……ありがとうございます』 暖かい表情に戻り会釈すると席を立ち上がる―― 『……………』 エリもつられるように立ち上がる 『じゃあ、本当に失礼いたしました』 『いえ………そんな……』 お互いに挨拶を交わす二人 帰りの足を踏み出す相模 一歩二歩 黙って見つめながら送るエリ 数歩進んだその矢先―― 『…………!』 相模は足を止める 『…………?』 振り返りまたエリの方へと引き返してくる 『………どうしました?』 『いや、あの……今日はお渡ししたいものがあったんです……やっぱりそれをお渡ししてかないとな、と……』 『私に……?』 カバンをあさりながら相模は続ける 『なんていうか――「あずかりもの」なんです。頼まれたものなんですけどね……渡さないと、その頼んでくれた人に悪いかな、と……』 『「あずかりもの」?』 相模はそのモノを差し出した それはCDだった 『………?』 赤い色が印象的なジャケット 『たぶん……なんの事か分からないと思いますが……黙って受け取ってください』 『?』 手渡されたCD 『それと伝言です』 『………?』 『「あなたに出会えて本当に良かった」と――』 改めて去って行く相模 『…………』 彼の後ろ姿……… “……………” エリの頭の中で何かが引っ掛かる―― 店を出てしまった相模 その姿は夜のとばりに消えていった 『…………』 改めて席に腰を下ろすエリ 相模から渡されたCD “サザン……だ……” それは サザンのアルバム―― テーブルの上に置く そして 相模から貰ったもう一つのモノ 『相模………翔……さん……かぁ……』 彼の名刺を取り出し 改めて見つめる “……相模……翔……” 心の中でもつぶやいてみる “………翔………” 『…………?』 何か一瞬、エリの耳の奥で何かが響いた 『……………?』 懐かしい響きというのだろうか? “…………翔………?” もう一度呼んでみる “………翔………” ――『翔君!』―― 『――!?』 “………翔………君………?” 『翔………くん……』 口に出した途端 “!!!!!” ハッとした 何かが記憶の中で合致していく―― 『…………!?』 遠い記憶の中で―― ――『へぇ~エリさんサザンのあのアルバム持ってるんだぁ~』―― “…………!?” 〈ドクドクドク〉 高鳴る心拍音 ――『翔くん持ってないの?じゃあ~貸してあげるね』―― テーブルの上のアルバム 〈ドクドクドク〉 “――翔君!!?――” 〈ガタン!〉 席を立ち上がる “私――ちっとも気付かなかった!” 駆け出すエリ “ちっとも思い出せなかった……” 店のドアを開ける “翔君――!!” 外の通りにはまばらな通行人 “ごめんね――!!” 見渡すが見当もつかない 何故か目頭が熱くなってくる “ごめんね――翔君!ごめんね、ホントにごめんね―――!” 小走りにさ迷う夜の通り 『……………』 溢れ出す涙 ――『エリさんの夢って何?』―― “……………” ――『僕の夢はさ――音楽会社に勤めることなんだぁ~』―― “……………” ――『好きな音楽を仕事にできるんだよ。最高じゃん』―― 『……………』 やがて足を止める―― あきらめたかのように
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